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年間400もの視察団が訪れる滋賀県長浜市の「黒壁運動」

~一ヶ月に4千人しか来なかった商店街に年間180万もの人が~

街づくり、商店街活性化が叫ばれて久しいが、成功事例は本当に少ない。その数少ない成功事例の中で最も高く評価されているのが、「黒壁運動」とも称される滋賀県長浜市の活動だ。黒壁が主体となっての元気印の街づくりのありようは、元気印企業づくりにも通じる。

いま滋賀県長浜市の商店街が注目されている。年間400近くの視察団が来ると聞く。太閤秀吉から400年の歴史を持つ長浜の中心商店街の栄枯盛衰振りはすさまじい。昭和30年代には滋賀県で一番活気のある商店街といわれたのが、昭和40年代後半から衰退期に入り、昭和60年始めには一ヶ月の買い物客数が四千人程度にまで落ち込んでいる。それがいまでは年間180万人もの買い物客が訪れるまでになったのだ。

なにがこの活況をもたらしたのか。それはひとえに、第三セクターの(株)黒壁の存在があってのことだ。今回は元気印の組織として、この黒壁を紹介したい。第三セクター方式での地域活性化の成功例は皆無に近いとも言われる中で、黒壁はその役割を見事なまでに果たしている。

なぜ3セクで成功したのか。ひとつはその資本構成に要因がある。スタート時点の資本金は1億3千万円だが、長浜市の出資は四千万円にすぎない。残りの9千万円が民間企業の出資なのだが、面白いのは、この中に商店街に関係する企業が一社もないことだ。そもそも(株)黒壁は、商店街の中心部に位置していた、黒壁の名で親しまれていた教会の建物保存を目的として昭和63年に設立されている。設立にあたって、商店街のメンバーにも出資を募ったのだが、衰退するばかりの状況とあって、ひとりとして要請に応じなかった。結局、地元の有力企業8社が出資して創業している。

(株)黒壁は、教会をリニューアルしてガラス工房をつくり、その作業を顧客に見せ、ガラスを販売することで成功したのだが、このガラスを事業の中心におけたのも、メンバーに商店街の関係者がいなかったからだという。従来の商店街は、地元の消費者に相手にされなくなったのだから、全く新しい事業を持ち込んだほうがいいと、黒壁のスタッフは考えたというが、商店街の関係者がいれば、こうした発想は出てこなかったに違いない。

(株)黒壁の笹原社長は、なぜ成功したのかの問いに、次のように答えている。

「一番良かったのは、つぶれたらつぶれたでしょうがないと思ってたことでしょうね。それが自由にやれた理由です。それと黒壁では、建物をリニューアルするばかりでなく、中身も人の心も変えてしまいました。このへんがよその街づくり運動と違うところではないでしょうか」

黒壁は第三セクターとは言え、市は口を挟まずに、なにをやるかは民間の出資企業の経営者に任せてしまっているところにあるのだが、そうした組織だったからこそ、自由にやれたといえる。多くの第三セクター方式での街づくりでは、行政サイド、民間サイドともに、それぞれの利害を持ちこんで事業を計画する。そこには消費者の姿はない。ところが黒壁では、消費者に捨てられた街に消費者を呼び戻すために何をなすべきかを考えるところから事業計画をスタートさせている。この姿勢が第三セクターでの街づくりを成功させたのだ。

最近の長浜には、黒壁の名を冠した店舗が30にまで増えてきている。笹原社長は、「黒壁の店づくり、街づくりを理解して賛同できるものに何号館と与えています」という。笹原社長には、商店街ぐるみで何かをやろうという考えは、創業時も今もない。あくまでも、価値観を共有できる者がグループを結成して事業を推進し、結果として地域全体が活性化すればいいと考えている。

ところが多くの地域の商店街活性化、街づくりでは、地域ぐるみでの取り組みを第一と考えている。全員の意見がまとまればいいが、そんなことはありえない。全員の賛成を得ようとすれば、一番意欲のない人のレベルにあわさざるを得ないのだ。これでは、革新的な街づくり事業は出来ない。

黒壁の場合には、既存の商店街と一線を画して活動してきたが、結果として全体の活性化に大きく貢献している。黒壁のようにセンスのいい店をつくれば客が来ることを知り、それぞれが頑張った結果だと笹原社長はいう。黒壁は商店街全体を巻き込むことをしなかったが、いくつかの成功事例を見せることで、商店街全体を元気印に変身させてしまったのだ。

この黒壁のようなアプローチの仕方は、企業が新規事業に乗り出す際や業務改革に取り組むときに大いに参考になると思えるがいかがなものか。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2000年7月31日 掲載]

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