第12回 海外進出のリスクマネジメント
増加する企業の海外進出
グローバル経済が進む中で、製造業の海外生産は大幅に増加しています。コスト競争が激しさを増していますが、日本企業の人件費が高いため、製品や部品を国内生産することが困難となり、海外での生産を選択せざるを得ない企業が増えています。大企業の生産拠点の海外移転が進む状況下で、協力工場の中小製造業も海外展開して現地で対応することが迫られています。
85年度のプラザ合意以降の急激な円高により、日本企業の海外進出が増加しました。90年代に入るとアジア諸国、特に中国への進出企業が増加しました。また、海外進出の目的も生産コストの削減だけでなく、海外現地マーケットの将来性や、海外進出した組立メーカーへの部品供給拠点の機能も求められています。
中国は「世界の工場」、「輸出基地」といった様相をしめしています。その流れは今後もわが国の製造業と雇用に甚大な影響を及ぼしていくことでしょう。
海外進出のリスクの種類
企業が海外進出する際のリスクは、事業リスクとカントリーリスクに大きく分けられます。
(1) 事業リスク
事業リスクには、さまざまなものがあります。フィージビリティ・スタディ(事業計画)の不備、進出企業の業績の悪化、人事や労働条件の問題、合弁企業とのトラブル、海外経済の悪化や市場の冷え込み、などが挙げられます。
(2) カントリーリスク
カントリーリスクは、予測することが難しいリスクです。ここ2、3年でよく聞くようになった日本製造企業の「国内回帰」も、カントリーリスクが要因のひとつになっています、カントリーリスクは、テロ、革命、戦争、内乱、政情不安、国有化、外国為替・送金停止など、個々の海外進出企業では対処できないレベルのリスクです。
中国については政治体制の違いをはじめとして、人民元切り上げ問題、税制等の法制度の不透明さ、電力不足、知的財産権の侵害等が報道されています。これに加えて、いわゆる反日デモとそれに続く日本商品のボイコットや工場でのストライキといった騒ぎが記憶に残っています。
海外進出のリスクへの対応
(1) 外進出のビジネスモデルの明確化
海外投資は、膨大な投資額が必要となります。当然ですが、資金は固定化し、リスクが増大します。そもそも本当に海外進出が必要かどうか、メリットがあるのかを考える必要があります。その上で、直接的な投資をしなくても可能な委託生産やOEMなどのビジネスモデルを検討することも大切です。特に、海外進出経験のない企業は慎重にステップバイステップで進めていくことが望ましいといえます。また、進出国の規制により、現地企業との合弁という選択肢になる場合もあります。その際にはWin-Winの関係となる相手企業を選ぶことが重要です。
(2) カントリーリスクへの対応
経済的な側面だけでなく、進出国の政治的安定度を考慮することも重要です。経済的な評価で差が少ない場合には、カントリーリスクの低い国へ投資をすることが望ましいといえます。また、複数の投資案件がある場合は、投資先を分散させてリスクの軽減も検討すべきです。
(3) 綿密なフィージビリテイ・スタディの実施
海外進出のリスクを軽減するためには、綿密なフィージビリテイ・スタディの実施が重要です。海外進出する企業は、投資案件の将来性と想定される利益を予測し、海外投資を判断する必要があります。回収期間法(注1)、正味現在価値法(注2)、内部収益率法(注3)などの投資評価の手法を活用し、海外投資の意思決定をおこないます。
- 注1)
- 回収期間法とは、投資した資金がどの程度の期間で回収されるかを図り、投資評価をおこなう方法であり、回収期間が短い方がよい。
- 注2)
- 正味現在価値法とは、投資から得られるキャッシュフローの累積の現在価値と初期投資額を比較し、現在価値が投資額を上回れば投資が可であると判断する方法である。
- 注3)
- 内部収益率法とは、正味現在価値がゼロとなる内部収益率が投下する資本コスト以上である場合に投資が可であると判断する方法である。
中小企業診断士・ITコーディネータ 林 誠
[2008年1月8日 掲載]
- 第11回 天災など不可避なリスクのマネジメント
- 第12回 海外進出のリスクマネジメント
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