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退職者による営業秘密の漏洩と防止策

Q

我が社は航空機などに使われる精密部品を製造していますが、先日、海外のライバル会社が我が社の主力製品と同様な製品を開発しました。この製品の製造には我が社独自のノウハウが必要です。実は、以前退職した技術者がそのライバル会社に転職しており、その製品の開発を主導していたことが分かりました。退職時に製造ノウハウを無断で持ち出したとしか考えられません。我が社としてどのような措置を取ることができますか。また、防止策等があれば教えてください。

A

このケースは、元従業員(退職者)による営業秘密の不正取得、使用、開示、いわゆる営業秘密の漏洩(営業秘密の侵害)にあたる可能性があります。
この場合、技術者であった元従業員や転職先のライバル会社に対して、製造・販売の差し止めや損害賠償といった民事的措置を求めることに加え、悪質な漏洩行為が刑事罰の対象となることから、元従業員やライバル会社を刑事告発することができます。

【営業秘密とは】

営業秘密を一口で述べると、「企業内で秘密として取り扱っている技術や情報、ノウハウ」ということになります。また、営業秘密とされるためには、不正競争防止法(第2条第6項)による以下の3つの要件を満たす必要があります。

(1) 秘密管理性

対象となる情報などが、秘密として管理されている必要があります。例えば、1) 対象にアクセスできる者が制限されている(アクセス制限)、2) それが秘密であると認識できる(施錠した保管庫に入れてある、文書に「秘密」などと書かれてある:客観的認識可能性)、などといったことが求められます。

(2) 有用性

対象となる情報などが、客観的にその企業にとって役に立つものである必要があります。実際に利用されている必要はありません。

(3) 非公知性

その企業以外では、一般に入手できないものである必要があります。

不正競争防止法
第2条第6項 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

たとえ会社にとって有用な秘密であっても、その対象が無施錠の引出しに入れてあった場合などは、営業秘密としては保護されないことになります。
このケースでは、製品の製造に不可欠なノウハウが、日頃から営業秘密として認識され管理下に置かれていた必要があります。

【営業秘密の不正取得、使用、開示】

元従業員(退職者)による営業秘密の不正取得、使用、開示については、平成17年に行われた改正によって処罰の対象となる類型が拡充されています。
改正前の場合、元従業員の行為については、営業秘密が記録されている媒体等を不正に取得・複製することが必要で、そのような行為を伴わない営業秘密の不正使用や開示については処罰が困難でした。つまり、仕事上知り得た営業秘密を、退職後に使用したり開示したりしても処罰の対象にならなかったのです。
平成17年度改正によって、在職中に申し込みや請託があるような場合には、媒体の取得や複製を伴わない営業秘密の不正使用・開示についても処罰対象となりました(第21条第1項第8号)。

不正競争防止法
第21条第1項第8号 営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、不正の競争の目的で、その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者

ただし、在職中に、営業秘密の開示の申し込みがあったことや、使用・開示について請託を受けたことをどこまで明らかにできるかが問題になります。もちろん、その退職者が、営業秘密が記録されている媒体等を不正に取得・複製したことが明らかであれば、第21条第1項第6号により処罰の対象とすることができます。

第21条第1項第6号 営業秘密を保有者から示された者であって、不正の競争の目的で、詐欺等行為若しくは管理侵害行為により、又は横領その他の営業秘密記録媒体等の管理に係る任務に背く行為により、次のいずれかに掲げる方法で営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体を領得し、又は作成して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を領得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。

不正取得による使用・開示が認められれば、ご質問の会社(A社)は、元従業員である技術者やライバル会社に対して、差し止めや損害賠償などの民事的措置を求めることができます。一般的に、このような場合の損害額は、営業秘密を侵害した者がその行為によって受けた利益の額と推定することができます。

【刑事罰および法人処罰について】

営業秘密の不正な取得・使用・開示行為のうち、悪質な行為は刑事罰の対象となります。A社は、元従業員である技術者を刑事告発することができます。この場合、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」が課せられます。懲役刑と罰金刑が併科される可能性もあります。
また、その技術者の転職先(ライバル会社)の上司が、不正取得と知りながらその営業秘密を開示されていた場合、その上司も刑事罰の対象となります。さらに、上司が所属するライバル会社についても、その上司の選任・監督責任を問われ、両罰規定により法人処罰の対象となります(1億5千万円以下の罰金)。A社は、ライバル会社の上司とそのライバル会社を刑事告発することができます。

【防止策】

このケースのような、元従業員(退職者)による営業秘密の漏洩を防止するためには、会社と従業員間であらかじめ秘密保持契約を締結することが有効です。特に、退職者に秘密保持義務を明確に負わせるために、退職後も含めた適切な秘密保持契約を締結していれば、いざというときに契約違反による債務不履行責任(損害賠償)を求めることができ、不正行為に対する抑止力にもなります。
ただし、従業員と契約するにあたっては、常識的な範囲で対象や期間などを特定する必要があります。例えば、「当社で知ったことは一切秘密とする」などとした場合、契約自体が無効とされるおそれがあります。期間も「退職後10年間」などと限定する方が妥当と思われます。

ITコンサルタント 磯野 康孝
[2006年10月12日 掲載]

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