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「個人の思い」から「組織」の課題を可視化し、組織改善へつなげる分析技術

富士通研究所は、社会科学的アプローチを用いて従業員の組織方針に対する意識を可視化する新しい分析技術を開発。お客様の組織課題の解決に取り組むフィールド・イノベーションの活動に展開していきます。


組織方針の浸透度に不安を感じる経営者

多くの経営者は、組織の求心力を高めてよりよいビジネスにつなげていくために、企業の向かうべき方向性、「あるべき姿」を定めた、企業理念や事業方針などの組織方針を作成しています。しかし実際のところ、全員に正しく浸透しているかどうか、不安に感じている経営者は多いのではないでしょうか。

一方の従業員としても、組織としては高尚なことを言っているが、自分個人の目の前の仕事とのつながりが見えない、お客様とのコミュニケーションには直接かかわってこないものだ、と感じ、他人事のように捉えてしまいがちです。

経営者が掲げた組織方針と従業員の考えが結びつかず、その乖離が大きくなるほど、組織としての一体感を得ることができず、めまぐるしく変化する環境に柔軟に対応する企業体質を築くことができなくなります。

「個人の思い」の観点から組織の状況を可視化

組織改革を目的とした既存のコンサルティングサービスは、経済学や心理学、ITなど、さまざまな観点から組織状況の可視化に取り組んでいます。しかしながら、そうした可視化手法は、集団を集団のまま分析したり、従業員の行動追跡によって個人の動きを把握したりするにとどまっています。組織として一体感があるかどうかを見るには、組織と従業員一人ひとりの方向性が同じかどうかを分析する必要があり、そのためには「組織」と「従業員個人」の両方をつなぐ可視化手法が必要です。

そこで富士通研究所は、「個人の思い」というまったく新しい観点から組織の状況を可視化するツールを開発。組織の「あるべき姿」に対して、個人がどのようにコミットしているかを、直感的にわかりやすい方法で示すことに成功しました。本ツールにより、組織方針の浸透度を把握することができ、組織改善の具体的な施策へとつなげることができます。

「組織方針」と「個人の思い」の結びつきを可視化し、組織改善に役立てる

今回開発した可視化ツールは、富士通研究所独自の「Vision-Mean分析」という分析手法を用いています。以下に、本ツールを用いた組織改善の流れを説明します。

アンケートの実施

従業員に、5分程度で記入できるアンケートを実施します。アンケートに使用するワークシートは、従業員が自由な発想で書き込めるよう、富士通研究所が独自に開発したフォーマットで作成しています。ワークシートに記入するのは、「組織方針に対してどう思っているか」ではありません。例えば、「3~5年先にどうなっていたいか」「現在の業務の延長上としてどうなっていたいか」といった“個人の思い”です。そして、その思いに必要になることを順次書き込んでいき、最後に、今すぐ始めることを書き込んでもらいます。

アンケートの集計

回収したワークシートの内容を可視化ツールに入力します。全従業員の入力を終えたら、同じ内容の思いを束ねていきます。図1は、4人のアンケート結果を重ね合わせた集計作業のサンプルです。これを3つの組織方針へと重ね合わせますが、この集計作業はKJ法注1と同じような考え方で進めることができ、特に難しい作業ではありません。

アンケート集計の作業画面

黄色が従業員、ピンク色がその従業員の“個人の思い”、水色がその思いに必要なこと

可視化ツールによる表示

集計したデータは、「アンカーマップ注2」と呼ばれる描画手法により、可視化ツール上で自動生成されます。図2のように、従業員一人ひとりがどの方針に対して深くコミットしているかが位置関係で示されます。

組織の状況を位置関係で示すアンカーマップ

黄色が従業員、白が従業員の“個人の思い”、水色が組織方針

報告の作成(図の解釈)

一般に、コンサルティングサービスの調査報告書は、分厚い文書やグラフで示されることが多く、経営者でも読み解くのに時間がかかりますが、この可視化ツールでは組織方針と従業員を線でつないだネットワーク図の形式で結果が表現されるため、誰でも一目で見てわかるようにしました。

図から、次のようなことがわかってきます。

  • 田中さん、山田さんは、現在の仕事とそれを支える技術に特に力を入れている様子が伺える

  • 幹部従業員である青木さんは、組織としての技術力の向上と、組織の革新に力を入れている様子が伺える

  • 別の目標を持つ高橋さんは、組織の方針から離れている様子が伺える

こうした個人の思いから、図の3つの組織方針のうち、「自己革新する組織」に従業員が十分にコミットしていないことがわかります。これが、組織方針と個人の思いの乖離している部分であり、従業員への浸透度が低い組織方針です。しかしこの結果は、コミットしていない従業員の評価につなげるものではなく、むしろ、組織方針を出している側の課題と捉えるべきものです。

課題に合わせた施策の設計と実施

課題が明らかになれば、対応するため施策を設計し、実施へとステップを進めます。従業員が意識しないような方針を掲げてしまっているとすれば、その方針は再考が必要かもしれません。あるいは、従業員にうまく理解してもらえていないだけだとすれば、噛み砕いて説明する機会が必要かもしれません。

このように、可視化ツールを活用して調査から施策の実施までを繰り返すことにより、継続的に組織の改善を行うことができます。

可視化ツールの活用による組織改善ループ

富士通研究所が、富士通のSE部門や事業部などで実施した調査では、「この目標が達成できない原因がわかった」「部内メンバーの気持ちを共有できた」といった声があがり、半年後に再度行ったアンケートでは、組織方針に対する従業員のコミット度が高まり、組織の一体感が強化したという実績も得られています。

本ツールは、部長が自分の配下の30人くらいのチームを束ねるといったケースで、部下にきめ細かいアドバイスをする目的にも活用できます。例えば、普段は独立して動いているように見える部下が、各人は自分のスキルをもっと磨いてみたいということがわかれば、「こういう仕事に取り組んでみれば、あなたが目指すスキルが上がるし、会社として目指す方向とも同じですよ」といった施策につなげていくこともできます。

現場へ足を運ぶことから生まれた可視化ツール

富士通研究所では、2004年より、富士通のSEと特別プロジェクトを編成。共同でSEの開発現場のワークスタイルを変える研究に取り組んできました。この特別プロジェクトでは、フィールドワークという社会科学的なアプローチを用いて、実際に現場へ足を運んでSEの仕事を観察とインタビューをしながら分析をおこなってきました。また、第三者が踏み込むことにSEが抵抗を感じないよう「ラポール注3」を築くことにより、現場との密なコミュニケーションを生み出し、現場視点を踏まえた上で第三者ならではの客観的な改善施策の導出をおこなってきました。この取り組みは、まさに「フィールド・イノベーション注4」の領域です。

また、メンバーは、情報工学、文化人類学、ソーシャルネットワーク分析、ヒューマンインターフェース学、ゲーム理論、組織経営学など、専門領域の異なる技術を身につけており、こうしたさまざまな専門領域の融合と、現場から得られる声から、今回の可視化ツールが生まれました。富士通研究所では、組織を改善するための可視化ツールとして以下の3つのツールも同時に開発し、お客様の課題に合わせて組織改善を進められるラインナップをそろえました。

組織内協力関係可視化ツール

他の従業員との関係性に関する1分程度の簡単なアンケートをとり、組織内の協力関係の現状を可視化。

組織内協力関係可視化ツール

会話構造可視化ツール

会議中に誰と誰が会話したかを計測し、組織構造と重ね合わせることで、対話に関する課題を可視化。

会話構造可視化ツール

施策効果可視化ツール

組織改善施策の実施効果を可視化。

施策効果可視化ツール

組織課題を可視化する“組織の振り返り”ツール

「従業員を評価するツールではなく、組織の自律改善活動の一環として、現場の人たちが会社の中でどういう位置づけであるかを知る“組織の振り返り”のためのツールとして役立ててほしい」――富士通研究所はこうした思いから、本技術を始めとする各種の組織課題を可視化するツールを開発しました。現在、富士通のフィールド・イノベータ注5やコンサルタントへの展開を精力的におこなっています。お客様一人ひとりの思いを理解し、お客様の組織改善にお役立ちする富士通研究所に、今後もご期待ください。

注記

(注1)KJ法とは :
膨大な定性データをいったんカードに分解した後、グループ毎にまとめていく手法。共同作業において効果的とされる。KJは考案者である文化人類学者・川喜田二郎氏のイニシャルに由来。
(注2)アンカーマップとは :
Anchored map。グラフを構成する2種類以上のノード属性に位置の制約を課して配置し、複数の観点が絡み合ったグラフの構造の理解を容易にする描画手法。
(注3)ラポールとは :
rapport。親密な結びつき、信頼関係。
(注4)フィールド・イノベーションとは :
ビジネスの課題を「見える化」し、ITだけでなく、仕事のやり方やスキル、そして、業務プロセスを含めて改革する活動。
(注5)フィールド・イノベータとは :
お客様と一体になってフィールド・イノベーションを推進することができる人。

[2009年9月1日 公開]

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