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半導体業界が注目する新しいナノカーボン材料の発見

富士通研究所は、半導体LSIやトランジスタでの利用が期待される新しいナノカーボン複合構造体を発見しました。従来の金属素材に代わる環境にやさしい素材として、業界から大いに注目されています。


LSIの微細化に応える「カーボンナノチューブ」

ナノテクノロジー(注1)は、産業インフラにかかわる21世紀の最重要技術のひとつとされています。
2000年、米国のクリントン前大統領がナノテクノロジーを国家的戦略研究目標に位置付け、「国会図書館の情報を角砂糖1個の大きさのメモリに収容する」と表現したことで注目が高まり、応用研究が活発におこなわれるようになりました。富士通研究所においても、さまざまなナノテクノロジーの研究をおこなっていますが、その中のひとつとして、「カーボンナノチューブ」の電気的特性に着目し、それを構成部品に応用する研究を進めています。

カーボンナノチューブは、炭素原子が6角形の網の目のように並んだシート状の構造を持つ「グラフェン」を、円筒状に巻いた構造をしています。炭素同素体としてはほかに、鉛筆の芯(黒鉛)やダイヤモンドなどがあります。黒鉛は、グラフェンが幾重にも積層した「グラファイト」構造をしており、シート同士の結合が弱いため軟らかくてすぐに剥がれ落ちます。
またダイヤモンドは、炭素をピラミッド状に結合することにより上下左右の結束が強い「ダイヤモンド」構造をしています。

このように同じ炭素であっても、結晶構造が異なると、色や硬さなどの性質が異なってきます。

カーボンナノチューブの特性は、高い電流密度耐性と放熱性です。
この特性は、そのナノスケールの微細さに加え、半導体LSI素材としてたいへん有効です。現在、半導体チップの配線によく使われている素材は銅ですが、カーボンナノチューブはダイヤモンドと同等の強さで、かつ銅の1,000倍の電流量に耐えることができます。

また、電子が散乱せず高速に通り抜けることも可能なことから、抵抗も小さくてすみます。さらに熱伝導率に関してもすぐれており、銅の10倍の速さで熱を伝えることができます。
すでにカーボンナノチューブの合成には、半導体LSI材料としての応用が可能な400℃程度の低温技術が確立されつつあり、銅にかわる次世代のLSI縦配線材料としての研究がすすめられています。

半導体コンソーシアムである株式会社半導体先端テクノロジーズ(通称:Selete)では、LSIの微細化が進み配線幅32ナノメートル時代を迎える2013年を、カーボンナノチューブの実用化目標としています。

世界初のナノカーボン複合構造体の発見

富士通研究所は、カーボンナノチューブの成長機構を研究する過程で、化学気相成長法(注2)により、真空槽内の基板上にカーボンナノチューブを合成する実験をおこなっていたところ、偶然にも新しいナノカーボン複合構造体を発見しました。通常、カーボンナノチューブが成長した基板は黒色をしていますが、表面がグレー味を帯びた鏡面になっていたのです。
そこでくわしく調べた結果、基板上で垂直方向にそろって成長した多層カーボンナノチューブ上に、数層から数十層の多層グラフェンが自己組織的に形成されていることを確認しました。

ナノカーボン複合構造体としては、これまでに0次元と1次元の複合構造体である「ピーポッド(注3)」が発見されていますが、1次元(カーボンナノチューブ)と2次元(グラフェン)が垂直に接合している複合構造体の発見は、今回が世界初となります。

新しいナノカーボン複合構造体への期待

カーボンナノチューブとグラフェンは似た性質を持ちますが、電気・熱伝導の方向がことなります。
グラフェンはシート状のため、2次元方向に高い電気・熱伝導性を持ちます。カーボンナノチューブは円筒状のため、1次元方向(軸方向)に高い電気・熱伝導性を持ち、隣り合ったカーボンナノチューブ同士の伝導性は低いという特性があります。したがって、両方の構造と特長を組み合わせることができれば、3次元方向に高い電気・熱伝導性を実現でき、半導体LSIの縦方向のみの配線への応用からさらに進み、縦から横方向、横から縦方向の配線にも使えることが大いに期待されます。

今回の新しいナノカーボン複合構造体の発見は、ほかにもいくつかの点で注目されています。
カーボンナノチューブは、ほぼ同じ高さで自己組織的に成長しますが、先端をそろえて平面にするためには研磨などの加工が必要です。

しかし新しい構造体の場合は、その研磨の必要がなく、他の材料と接合しやすい特性を持っています。
またグラフェンに関しても、その合成には、これまでグラファイト結晶からテープを貼り付けて剥がす方法や、700℃以上の高温で合成させる方法が一般的でした。
ところが今回の発見では、510℃という低温合成に成功し、短時間であればグラフェンのみの合成が可能なことも確認できているため、将来のトランジスタのチャネル素材の合成技術としても、注目が高まっています。

環境にやさしい“カーボンエレクトロニクス”を目指して

現在、半導体LSIの製造には、さまざまな金属が利用されています。
そのため、レアメタルの価格急騰や再資源化をめぐる問題も起こっています。

しかしこれまでご紹介してきたように、炭素は配線材料として、電極として、あるいはトランジスタのチャネルとして、すなわち電気が通るあらゆる部分の材料としての利用が技術的に可能で、かつコスト的、環境的にも従来の金属より優位性を持つ、究極の材料と言えるでしょう。

カーボンナノチューブおよび新しいナノカーボン複合体にはまだまだ解明・解決しなければならないことがたくさんありますが、富士通研究所では、すべての素材を炭素で構成する「カーボンエレクトロニクス」の実現へ向けて、さらなる研究を続けていきます。

注記

(注1)ナノテクノロジー
原子や分子の配列をナノスケール(10億分の1メートル)で自在に制御してデバイスに使用し、産業に活用する技術。
(注2)化学気相成長法
Chemical Vapor Deposition(CVD)。ICを製造するための重要な工程のひとつで、ガスによる化学反応を利用して基板上に薄膜を形成する手法。
(注3)ピーポッド
カーボンナノチューブの中空構造に多数のフラーレン(炭素原子が集まってサッカーボール型の構造をした炭素同素体)が1列に詰まった複合構造体。その形がサヤエンドウに似ていることからこの名前が付いた。

参考

[2008年5月1日 公開]

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