お客様の想いを把握する戦略的インタビュー手法
「AIm(エイム)インタビュー」
富士通とお客様のリレーション向上に活用

富士通研究所は、営業店モニタリング(注1)で活用されている現状把握インタビュー手法に続き、お客様の「価値観・特長」を「見える化」する『AImインタビュー』を新たに開発。システム提案の現場での活用が期待されています。
よくあるインタビューの課題
お客様のニーズや実態を知るためにインタビューを実施することは当然のことですが、うまく聞き出せないこともあります。そのような場合は、聞き手が聞きたいことを、聞き手の言葉で聞いてはいないでしょうか?
たとえば、「発注管理システムでデータベースが排他制御する機能は必要ですか?」と聞いても、「何について言っているんだ?わかる言葉で話して欲しいな」と話し手が感じてしまうこともあるでしょう。
あるいは「受発注業務に関する一番の課題は何ですか?」と一般的/抽象的な聞き方をしてしまい、「そんなこと言われても課題はいろいろあるし」と話し手がどう答えてよいかわからなくなることもあるでしょう。
かといって、気を利かせて「実施入力処理をする前に、個人データ確認をおこないますか?」とYes/No形式で聞いてしまうと、「そうでない場合もあるけど面倒だからYesでいいや」ということにもなりかねません。
このようなインタビューで得られた情報は有用性・信頼度ともに低く、その情報に基づいて構築されたシステムは有効に働かない危険性があります。
社会科学の知見を活用したインタビュー
そこで富士通研究所が開発したのが、文化人類学と認知科学を応用したインタビュー手法です。話し手の経験や意識を、話し手の言葉で、仮説を置かずに聞きます。
この手法では、質問ワークシートをもちいて、主導権を話し手に与えながらも会話のスコープは限定します。話し手には、ワークシートの多視点の切り口に沿って、自分の経験や意識をオープンに語ってもらいます。
こうして話し手から得られる情報は、雑多ではあるものの、情報量に富み信頼性が高いものとなります。実施後は、インタビュー音源から発言内容を書き起こし、KJ法(注2)などをもちいて構造化し、事実や気づきを整理します。
このインタビュー手法は、定性調査で利用されるエスノグラフィック法、ユーザー調査で利用されるContextual inquiry、英国犯罪捜査面接で利用されるコグニティブインタビューのアプローチを参考としており、事実起点で信頼性の高い情報を得ることができます。
現状を把握する「ECOWインタビュー」
富士通研究所が開発した前述のインタビュー手法は、2007年より営業店モニタリングで「ワーカー分析」として活用されています。
これは「ECOW(エコー:Ethno-Cognitive Interview for Work practice understanding)インタビュー」(注3)と呼ばれる手法で、現場業務のナレッジワーカーらが感じている「業務に対する意識」(負担感/リスク意識/モチベーション/CS配慮/ジレンマなど)に主眼を置いて、組織構造や役割分担を俯瞰的に把握しながら、「現場の業務実態」と 「考え方や意識」を表出化させることが可能です。

使用される質問ワークシートは、時間(時間的な作業の移り変わり)、空間(作業中の頻繁アクセス箇所)、人間関係(周囲の人との協力関係・体制)で構成され、ワークシートをもとにインタビューを進めることにより、聞き漏れ防止、話しやすさ向上、話の逸脱修正の効果があります。

お客様視点を把握する『AImインタビュー』
前述の「ECOWインタビュー」では、現状の業務実態とさまざまな課題を「見える化」することはできますが、「何を目指すべきか」までは見えてきません。
「何を目指すべきか」がわからないと課題の優先順位がわからず、対症療法レベルで終わってしまいます。また、現実の行動は日々変化し、今日の課題は明日必要か不明でもあります。
そこで開発されたのが、戦略的フレームワークに基づいて、お客様が製品やサービスの利用を通じて得たい、本質的で変わらない価値を把握し、中長期的な方向性を獲得する、『AIm(エイム:Appreciative & Imaginative)インタビュー』という手法です。
これは、お客様視点を獲得することにより、短期的・表層的なニーズだけではなく、中長期的・本質的なニーズを捉えるという新しい取り組みです。
「お客様視点」とは、お客様にとって「何が重要で、何が重要でないか」を判断する基準となるものです。お客様の個々の立場における強みや良さ、価値観、モチベーションの源、成功体験といった定性的なデータが獲得できれば、理想像が明確になり、それに向けた課題の優先順位が見えてきます。
また、『AImインタビュー』で得られた情報をお客様にフィードバックすることにより、お客様と目指すべき理想像を共有し、理想像実現に向けた段階的/継続的な実行プランを共同で考えることができます。
このような活動を通じ、お客様との信頼関係をより強化することができると富士通研究所では考えています。
『AImインタビュー』の流れ
『AImインタビュー』のねらいは、過去の肯定的業務体験から、お客様の価値観、良さや強み、モチベーション源を聞き出すことにあります。
はじめに「ECOWインタビュー」のやり方で現場の実状、問題意識を聞き出し、後述のプロセスに従い、得たい価値・ありたい姿(将来ビジョン・方向性)を表出化します。これらをもとに、理想像と現状を比較し、改善事項やギャップやずれを明確化し、解決すべき課題を抽出していきます。
『AImインタビュー』のアプローチは、デビッド・L・クーパーライダー教授の「Appreciative Inquiry」、林吉郎(現青山学院大学名誉教授)・八木龍平(現富士通研究所)の「6眼モデル」、野中郁次郎(現富士通取締役)らの「組織的知識創造理論」を参考にしています。

『AImインタビュー』は、一人あたり1.5~2時間で、「現状把握セッション」「理想像把握セッション」「振り返りワークショップ」の3つのセクションで構成されます。
現状把握セッションでは、「ECOWインタビュー」を応用していますが、短時間実践のため、お客様の業務を事前調査したうえで業務に適合するワークシートを作成して実施します。
理想像把握セッションは、お客様がどういうモチベーション・価値観を持って働いているのか、ある意味、文化を捉えるもので、お客様に依らない共通のAImワークシート群を利用します。
理想像把握セッションでのインタビューの流れは次のようになります。
はじめに過去の印象的/肯定的な経験を聞き、次に、その経験により生じた行動や気持ちの変化を聞き、変化をもたらした原動力を探ります。
こうして徐々にお客様の意識を深めた後、お客様の強み・弱みを整理しながら、理想像を展望していきます。
インタビュー中は、オブザーバーがお客様の「語り」をマインドマップ的にメモしていきます。さらに振り返りワークショップでは、戦略的フレームワークにお客様の「語り」を分類し、お客様視点の全体像を俯瞰的に把握します。
さらに後日、インタビュー中の音源を書き起こし、発言のログを整理します。


「人間中心デザイン」から生まれたお客様視点
営業、デザイナー、保健師、大学教員、小学校教員、大学事務、管理職など、さまざまな職種の方に『AImインタビュー』を実施した結果、参加者からは「現状とあるべき姿、そして今後の課題が可視化できた」「自分を宙から見ているよう」「お客様の企業文化をすくい上げるのに有効」といった声が寄せられました。
『AImインタビュー』の利用は、「現状の製品・サービスで期待通りの結果が得られない」「次期システムの要件がお客様自身もわからない」「業務プロセスの改革案が定まらない」など、さまざまなシーンが考えられます。
現在は社内外の各種プロジェクトに試行し、有効性を検証している段階ですが、今後はこの手法の教育カリキュラムを作成し、ノウハウを展開することを計画しています。
富士通研究所では、国際規格ISO13407(注4)で規定された人間中心デザインのプロセスを実現するために、業務ユーザーが抱える問題意識や業務内容を多角的に把握するインタビュー手法の開発およびフィールド実践を重ねていました。
現代はゴールが明確でない時代です。かつてはコンピュータにさせたいことは決まっていて、それをいかに高速かつ短期間にできるかが求められる時代でした。
しかしIT技術の高度化にともない、現在ではITでできることが拡大した結果、ユーザーは「何をすればいいのか」わからなくなることがあります。
その答えを見つける一つの重要なアプローチが「人間中心」という考え方だと富士通研究所は考えています。
この手法が、富士通のビジネススタイルとして浸透し、お客様のことをより深く理解した上で、お客様のニーズと現場により適合したソリューションやプロダクトをご提供できるよう、今後も改良・利用促進を進めていきます。
注記
- (注1)営業店モニタリング
- 富士通ならではの総合フィールドワークを駆使し、空間分析、業務分析、ワーカー分析などを通じて営業店の実態と課題を「見える化」する金融ソリューション。
- (注2)KJ法
- 膨大な定性データをいったんカードに分解した後、グループ毎にまとめていく手法。共同作業において効果的とされる。KJは考案者である文化人類学者・川喜田二郎氏のイニシャルに由来。
- (注3)「ECOWインタビュー」:雑誌FUJITSU 2007-5月号「業務把握インタビュー手法 -
- PDF業務の実態をワーカ視点で『見える化』し、課題を抽出する」(454.7KB)
- (注4)ISO13407
- ユーザビリティに関する国際規格で、ユーザーの視点に立った機械/システムを作ることを求めている。ISO(国際標準化機構)により1999年制定。
[2008年4月1日掲載]
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