グローバル時代を生き残るために、日本の製造業は進化することが重要!

毎年、好評を博している「富士通PLM実践フォーラム2008」。なかでも話題となるのが基調講演です。今回、ご講演いただくのは「ものづくり経営研究センター」の特任研究員、吉川良三氏。タイトルは「グローバリゼーションに対応したものづくりとは」です。先見性と経験にもとづく示唆に富んだお話は、新たな「気づき」の機会となることでしょう。講演前の吉川氏を訪ね、講演に向けたお話やメッセージを伺いました。
本フォーラムは終了しました。多数のご来場、誠にありがとうございました。
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経済学の観点から見る日本の「ものづくり」とは
東京大学大学院経済学研究科「ものづくり経営研究センター」の特任研究員として取り組まれていることとは?
「ものづくり経営研究センター」は、東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏教授をセンター長に、経済学の観点から日本の「ものづくり」の研究、体系化に取り組んでいます。いわば日本の「ものづくり」の教科書をつくることが大きな目的のひとつです。そのなかで私の役割は、民間企業で培った経験にもとづく実践的な視点を盛り込むことにあります。
日本の「ものづくり」に対して藤本教授は重要な問題提起をされています。それは「1990年代、日本の失われた10年は、技術的な問題ではなく、別なところに問題があったのではないか」ということです。
経済学の観点から日本の「ものづくり」に対する問題提起をもっと詳しく…
この問題を解くために2つの考え方を藤本教授は提示されています。ひとつが、消費者はいわゆる「もの」を購入しているのではなく、「設計情報」という付加価値を購入しているということ。コップを例にとると、消費者は紙やプラスチックを買うのではなく、コップという設計情報を購入しているのだと。設計とは設計情報を生み出すこと、生産とは設計情報の具現化、我々の言葉でいえば、転写することと定義しています。
もうひとつは、製品のアーキテクチャ(製品の設計思想)と呼ばれる考え方があります。一方は「組み合わせ型」アーキテクチャと言って、一つの機能が単純に一つの部品によって性能や品質が決定される考え方のことで、「モジュラー型」とも呼んでいます。
もう一方は「擦り合わせ型」アーキテクチャと言って、一つの機能が複数の部品を最適設計することにより、目標とした性能や品質を確保する考え方のことで、「インテグラル型」とも呼んでいます。
前者は韓国、中国などが得意とし、後者は日本が得意としています。
この2つの考え方を中心に、日本の競争力を分析していますが、日本の「ものづくり」の課題を突き詰めれば、設計情報をベースにした戦略性の問題といえます。
日本の製造業とグローバリゼーションについて
今後、日本の製造業が取り組むべき課題とは?
現在、製造業をめぐる環境は劇的に変化しています。その大きな要因はグローバリゼーションとデジタルものづくりであると考えています。
グローバリゼーションは国際化とは異なるものです。一般的に国際化とは海外への工場や拠点の展開、海外企業への投資を意味していました。一方、グローバリゼーションとは市場も競争も調達も研究開発もすべて地球規模で考えるということだと思います。
私は「ものづくり産業地政学」という仮説を立てています。「ものづくり」の経営戦略と開発プロセスは、その国の文化や政治などによって違ってくるのではないかという考え方です。人件費が安いから海外に工場をつくるのではなく、市場性のあるところに工場や拠点、研究開発を移し、その国の人々が求める商品をその国の適正価格で販売していく。これがグローバリゼーションです。
グローバリゼーションとデジタルものづくりの関係性は?
デジタルものづくりとは、デジタル情報でものができるという意味です。デジタル情報により設備さえ導入したら訓練する必要もなく、世界中どこでも同時に同じものをつくることができます。デジタルものづくりはグローバリゼーションを容易に可能にします。
デジタル情報とは設計情報のことです。これからは、ものの流れではなく設計情報の流れをコントロールすることが重要になります。
日本の製造業が世界の市場で勝ち抜くためのポイントとは?
日本の「ものづくり」技術は世界に誇るべきものがあると、私はいまもそう確信しています。
たとえば、経年品質では他国を寄せつけない技術力があります。ただ、すべての市場が経年品質を求めているわけではありません。これからは製造品質だけでなく、設計情報にもとづく適合品質が重要になると考えています。地球規模で自社の強みを捉えなおしてみることも大切です。
もうひとつ、見逃してはいけない視点、それがイノベーションです。ある市場にとっては一般化している商品でも、その商品を見たことさえない人々が多い市場ではイノベーションとなります。日本の製造業は技術的なイノベーションだけでなく、市場のイノベーションをもっと重視すべきだと思います。
講演に向けたメッセージ
富士通PLM実践フォーラムにご来場されるお客様に向けてのメッセージ
日本は少子化が進んでいますが、地球規模で見ると、人口は増加しており2050年には100億人という数字も現実的になってきています。「ものづくり産業地政学」の視点に立てば世界の約200カ国にそれぞれの市場があり、100億人が潜在顧客となるわけです。
日本の「ものづくり」の長所はグローバリゼーション戦略と一体化したとき、かつてよりも大きなスケールで輝きはじめると考えています。そのためにはITをツールではなくシステムとして経営戦略のなかに組み込み、設計情報の流れをグローバルに管理する仕組みを実現することが重要です。
組織、プロセス、ITを変えれば、会社のかたちも変わります。かたちを変えること、それが真の意味での進化です。日本の製造業が進化することが生き残る戦略であり、今後の方向性だと思います。
吉川 良三(よしかわ りょうぞう)氏 プロフィール
神奈川大学工学部電気工学科を卒業後、総合電機メーカーに入社しソフトウェア開発に従事。CAD/CANに関する多数の論文、12年間にわたるガイドの執筆などを通じて日本のCAD/CAMの普及に貢献。1994年から2003年まで某韓国企業の常務を務め、グローバルな情報システムの構築などにより同社の躍進に貢献。2003年から東京大学大学院経済学研究科「ものづくり経営研究センター」の特任研究員として研究に従事。著書に「神風(シンパラム)がわく韓国」など。
[2008年8月1日 公開]
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