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第3回 部下のやる気を引き出すほめ方・叱り方
 ― 上司からのコミュニケーション4ステップで部下は育つ ―

第3回は、上司と部下のコミュニケーションをテーマにお話していきます。

コミュニケーションには、「人間関係を構築する」「情報を伝達する」「相手に行動を促す」という3つの役割があります。この役割を気にせずにいると、互いの関係を構築できないため、相手が何を考えているかわからなかったり、行動に促すための理解につなげることが出来ません。

部下を育てるためのコミュニケーションには4つのステップあります。

「コミュニケーションの土台を作る」「上手にほめる」「怒るのではなく叱る」「行動を促す」それぞれのステップについてお話ししていきましょう。


ステップ1 部下とのコミュニケーションの土台を作る
~会話をすることで状況・思いや考えを知る~

部下を育てるために、まず心得て欲しいことは部下とのコミュニケーションにおける土台を作ることです。コミュニケーションの成果は、話し手が話した言葉の量ではなく、受け手が受け取る言葉の量にあります。相手の心が閉じられてしまっていては、言葉は相手に届きません。部下に言葉を受け入れてもらうためには、土台を作る必要があります。

そのためには、日ごろから部下と会話をすることで部下の状況・思いや考えを知ることが重要です。

例えば基本的なことですが、まずは「○○さん、おはよう」と名前を呼んで部下に挨拶をしてみてください。「挨拶」という漢字には、「押す・迫る」という意味があります。部下の存在を認めるためにこちらから「押し」、心の窓を開くために「迫る」。そこから今日の調子を読み取ったり、話をするきっかけを作ります。また、普段から感謝・ねぎらいの言葉を口に出して、部下に伝えることも大切です。

資料を集めてくれたら「よく集めてくれたね。ありがとう」
プレゼンテーションを終えたら「お疲れ様。よく頑張ったな」

この一言が、任せられた仕事に対する思いや考えを部下から引き出すことができるだけでなく、部下自身も行った仕事の重要性を認めてもらえた満足感と、それを認めてくれたあなたへの信頼感を深めていくのです。

ここで、部下の気持ちの変化についてお話ししておきたいと思います。下の図は心理学者アブラハム・マズロー(注1)が自己実現の欲求を5段階で論じたものです。これに欲求が満たされたことによる部下の気持ちの変化をあてはめてみました。

それぞれの欲求を満たしていくことで、部下は成長していきます。部下の気持ちの変化を意識しながら、やる気を引き出すために次のステップに進んでいきましょう。

ステップ2 上手に「ほめる」~部下の人格・能力を認め、素直に伝える~

次のステップは、「ほめる」ことです。人は誰でもほめられたい、認められたいという思いを持っています。ほめられれば嬉しいし、自信も湧いてきます。

「ほめる」ときは、部下の人格・能力を認め、心から素直にそれを伝えることです。

では、どんなポイントを意識して「ほめる」と良いのでしょうか。

1. 小さな変化も見逃さずにほめる

部下の成長や改善に気づいたら、それがわずかな変化だとしても素直にほめましょう。部下にとってみれば、上司に認められたことで成長が実感でき、自信につながります。

「前より資料の作成スピードが速くなったね」
「今回の対応は、これまでの反省点をきちんと活かせていたね」

2. 具体的にほめる

どんな事が、どのように出来ていたのかを具体的に伝えることで、客観的な視点でほめられた事柄を捉えることが出来ます。また、意図したことを他者が理解してくれた嬉しさ、また、自分でも気がつかなかった利点が生まれることもあるのです。

「この表、必要なデータを抽出しやすいだけでなく○○にも活用できそうだね」
「○○さんの元気な声のお蔭で、場の空気がガラッと変わったよ」

3. 間接的にほめる

「ABC商会の山本社長が、ほめていたよ」などと間接的にほめることも良いでしょう。

人づてにほめられると、感激度は高くなります。特にお客様からのほめ言葉は、日頃の営業活動等の表れでもあり、モチベーションもあがることでしょう。

また、第三者に直接ほめてもらうことも効果的。そのためには第三者に対し、部下の良い点、頑張っている点を意図的に伝えましょう。


人には五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)のうち人それぞれに得意な感覚があります。コミュニケーション心理学であるNLP(神経言語プログラミング)(注2)では、視覚・聴覚・体感覚(触覚・味覚・嗅覚)と大きく3つに分け、得意とする感覚を優位感覚と言います。優位感覚の違いから、心に響くほめ言葉も変わってきます。

例えば、企画書をほめる場合、
視覚優位なら「この配置、とっても見やすいね」
聴覚優位なら「お客様の喜ぶ声が聞こえてきそうだね」
体感覚優位なら「企画書から君の熱い想いが伝わってきたよ」

小さな変化に気づくためにも、優位感覚を知るためにも、日頃から部下に関心を持って、観察することが重要です。

ステップ3 怒るのではなく「叱る」~改善点を具体的に指摘する~

誰だって叱られたくはないですよね。でも、叱られたときにそれを受け入れる心の土台が出来ていれば、その言葉はすんなり心に入ってきます。

ここで大切なのは、怒るのではなく「叱る」ということです。

「叱る」と似た言葉に「怒る」があります。それぞれの言葉には、どう違いがあるのでしょうか?

辞書で引いてみると、
「怒る」は腹を立てる
「叱る」は(目下のものに対して)欠点をとがめる。とがめ戒める とあります。

「怒る」は感情を露(あらわ)にしている段階で、そこから一歩冷静になり、相手の成長に繋げるものが「叱る」と言えるのではないでしょうか。

部下を「叱る」となると言いにくいことを伝えなければならないので、できれば叱りたくないと思う方もいるかもしれません。でも、部下に対して期待があるからこそ、その結果が下回った時に「叱る」必要があるのです。

そのためには、普段から部下に何を期待しているかを伝えておくことが大切です。それが伝わっていれば、部下も反省点を自覚でき納得できるはずです。また、「どうしたんだ。君らしくないな」という言葉も、相手への期待を告げて自覚を促すことができるでしょう。


「叱る」ときには、ただ否定するのではなく、「ここがダメ」と改善点を具体的に指摘しましょう。

「○○管理が出来てない!」→「△△を想定した上で××を準備し、管理しなさい」
「これじゃわからない」→「○○が××になってないから、わかりにくい」

また以下のような言葉で部下を叱ると、追い詰めてしまうことになるため避けましょう。

1. 相手の人格を否定する言葉

「だから、お前はダメなんだ」
「お前はどうしようもない奴だな」

2. 過去にさかのぼって非難する言葉

「確かあの時も同じミスをしたじゃないか」
「何年この仕事やってるんだ」

3. 他人と比較する

「Aはできているのに、なぜお前はできないんだ」

叱った後は続けて改善への「行動を促す」ことが肝心です。

ステップ4 行動を促す~「問題解決型」の質問を投げかけ考えさせる~

声を荒げて怒られると部下はとっさに言い訳や謝罪の言葉を伝えてきます。でも、これでは何も変わらず、また同じことを繰り返してしまうことになります。部下に行動を促すためには、まず改善への行動が取れるよう考えさせることが大切です。

そのためには、起きた出来事の「原因(責任)追求型」の質問をするだけではなく、未来に焦点を当てた「問題解決型」の質問をしましょう。


例えば納品ミスがあった場合

【原因追求型】「なんでちゃんと送らなかったんだ!」

何故?と原因を考えさせるのは、同じミスを繰り返させないためにも必要です。しかし、それで止めてしまうと問題は解決しません。そこで、次の質問をするのです。

【問題解決型】「どうすれば今日中に正しい商品を届けられる?」

他にもこんな表現があります。

[原因追求型]「なんで、こうなったんだ!」「なぜ、うまくいかなかったんだ?」「なぜ、そんなことをしたんだ?」[問題解決型]「どうすれば、目指す結果を得られると思う?」「次に同じミスをしないためには、どうしたらいいと思う?」「今すぐできることはある?」

この時に「~しろ」と指示してしまうと、部下は思考を停止し、言われたことだけしか行動しなくなります。質問することで考えさせ、自ら行動するクセ付けをしていきましょう。部下から答えが出てきたら、また問題解決型の質問を繰り返すことで、改善へ会話のキャッチボールをしましょう。そして、行動した結果が出たら「君ならできると思っていたよ」と「ほめて認める」ことで更なる成長につながります。


今回は、部下を育てる上司からのコミュニケーションをお伝えしてきましたが、いかがでしたか? このステップを繰り返し行うことで、部下のやる気を引き出しそれが成長につながり、上司と部下の信頼関係も築かれていくのです。


最終回は「今日からできるコミュニケーション力を上げる習慣」、自分も相手も大切にするコミュニケーション・スキルである「アサーティブ・コミュニケーション(相手を尊重しつつ、自分の考えを素直に主張する)」をご理解いただき、自分自身の言葉グセ、思考のクセを改善する方法についてお話しします。

[2009年10月1日 公開]

(注1) 心理学者アブラハム・マズロー:アメリカの心理学者(1908~1970)。人間の自己実現を研究する人間性心理学の最も重要な生みの親。人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物であると仮定し、欲求を5段階の階層で理論化した。

(注2) NLP(Neuro-Linguistic Programming)神経言語プログラミング:1975年ジョン・グリンダーとリチャード・バントラーによって体系化された行動モデルと関連するテクニック。コミュニケーションおよびセルフコントロールにおいて、人間の潜在意識と顕在意識の両方の働きを有効にするためのノウハウ。


著者プロフィール

山田 千穂子(やまだ ちほこ)
人財育成コンサルタント、株式会社レインボーコミュニケーション 代表取締役、岡崎女子短期大学 非常勤講師

愛知県瀬戸市出身、南山短期大学人間関係科卒業
安田火災海上保険株式会社(現 損保ジャパン)にて支店長秘書を勤め、2000年より人材派遣会社にて研修講師登録、企業の人財育成とともに数多くの講師育成にも携わる。
2007年3月、株式会社レインボーコミュニケーションを設立、代表取締役就任。
コミュニケーション心理学ともいわれる交流分析やNLP(神経言語プログラミング)など心理学をベースにした豊富な知識で人間力を高める研修を実施。
講師を軸に人財育成コンサルティング、キャリアカウンセラー、催眠療法士としても幅広く活動中。

主な著書:『なんで挨拶しなきゃいけないの? マナーの「ナンデ?」がわかる本』
http://www.rainbow-c.jp


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