第57回 言葉のギャップ
私は20代のときにアメリカのシカゴ近郊に住んだことがあり、その後30代の初めにイギリスのロンドンとオックスフォードに在住した経験があります。
すっかりアメリカ英語に慣らされて渡英した私に待っていたのは、大きな言葉のギャップでした。
渡英して間もない頃、ロンドンから郊外に向かうバスに乗ろうと、私は地図を片手に、バスターミナル周辺をうろうろしていました。
寒さからすっかり体が冷え込み、とりあえず、目の前のデパートへ駆け込み、売り場の店員さんにこうきいたのです。
Excuse me, where's a bathroom?
すると、その中年女店員は、不思議そうな顔をして
Oh sorry madam, we have no bathroom here.
私は思わず really? を連発。
すると、oh と大きく頷きながら、こう言いました。
oh you mean toilet, we have a toilet at the very end of this corner.
彼女がどれくらいアメリカ的表現を嫌っていたか、想像できますよね。
Bathroom とは、アメリカではトイレだし、イギリスでは、それは日本同様浴室としか意味を成さず、toilet がトイレなのです。
いかにもインテリ風の彼女はそれを知っていて意地悪をしたのだと痛感した次第。
用を足して、ホッとして外に出ても、地図に示された場所にバスターミナルが見つかりません。
あれれ? とばかり、道行く人に尋ねました。
Excuse me, I am looking for a bus terminal station around here
その紳士風男性ったら、笑みも浮かべず、首をかしげています。
発音が悪いのかと思った私は、何度も‘bus bus 'と繰り返しますが、
依然、表情は硬いまま。
そして突如こう言ったのでした。
Young lady, there is a coach station, two blocks away
Coach?
Yes, we say a coach for a long distance.
そして彼はにこりと片側の口を緩ませて去っていきました。
そうなのです。長距離バスはバスでも、イギリスでは、
Bus ではなく、Coach と呼称するのでした。
たった10分間に、二回もイギリス英語とアメリカ英語の違いをこうやって習得した私。疲れ果てたものの、アメリカとはまったく違うと英国人たる誇りを感じ取った次第です。
皆様にはこのような目に合わないようにと配慮しつつ、少しだけ予備知識を差し上げましょう。
下記は、日常に出てくる「覚えておきたい英語 vs 米語」の表現をいくつか集めてみました。
ground floor vs first floor
旅行者が最初に戸惑うのが、建物の階の表現。
イギリスでは、一階が ground floor、二階が first floor、三階が second floor となっています。
アメリカは日本と同様、first floor と言えば、一階。second floor はニ階です。
待ち合わせなど間違わないように、頭に入れて置いてくださいませ。
lift vs elevator
エレベーターをイギリスではリフトと呼びます。
スキー場のリフトを想像してしまいそうですね。
underground vs subway
地下鉄をイギリスは underground または tube と言い、アメリカでは subway です。
ところが、イギリスでも sub way と言う表示があちらこちらで見られます。
「あっ、地下鉄だ」と思いきや、これは「側道」の意味。
イギリスを観光した方なら見かけたはずです。
Bill please vs Check please.
レストランでの食事を終えて、さてお勘定と言うシーンで
言わなければならないひと言が、
Bill please.
Check please.
上がイギリス英語、下がアメリカ英語です。
イギリスでチェックと言えば、小切手の意味。
ただし、cheque と言うスペルです。
Pay in cheque で「小切手で支払う」意味になります。
他、まだまだたくさんありますが、今日はこの辺で!!
石橋眞知子(いしばし まちこ)
エッセイスト&プロデューサー
学習院大在学中から深夜放送のパーソナリティとして活躍。
シカゴ・ノースウエスタン大学で日本語講師。オックスフォード大学留学。
異文化コミュニケーションやマナーをテーマに執筆やエッセイ、そして講演会などで活躍している。
現在の執筆活動の拠点は産経新聞「ビジネスアイ」。日曜版5面「女の本音・男の本音」、木曜版1面「よのなか万華鏡」を執筆、その視点にはたくさんのファンから絶賛を浴びている。
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