事業継続マネジメント(BCM)における教育訓練の重要性

不測の事態発生時にも、組織における重要な事業を継続する為には、事前に必要な対策や行動計画を事業継続計画(BCP)として組織内で共有しておく事が必要です。これを有事の際に実効性のあるものとするためには、教育訓練を実践し、検証をおこなっておく事が不可欠です。富士通総研のコンサルタントが、事業継続マネジメント(BCM)における教育訓練について解説します。
事業継続マネジメントプロセスにおける教育訓練の位置づけ

大規模地震、火災や風水害に加え、最近では新型インフルエンザの発生など、企業を取り巻く脅威は日々増大しています。不測の事態発生時にも、重要な事業を必要な時間内に再開・継続する為には、事前に必要な対策や行動計画を定め、事業継続計画(Business Continuity Plan、以下 BCP)(注1)として組織内で共有しておく事が必要です。
さらに計画倒れにせず、BCPに定められた対策を実施し、教育・訓練を実践、その評価により、継続的にBCPを改善し維持管理する事が、事業継続マネジメント(Business Continuity Management、以下 BCM)(注2)のもっとも重要なポイントです。
BCMのプロセスにおける教育訓練は、BCP(行動計画書)に基づき実施する対策内容を評価・改善するための重要なプロセスです。
BCPは、5W1H(注3)を記載した行動計画書(マニュアル)を中心に構成されるドキュメント群として整理します。有事の際、定められた行動計画書に従い適切に行動をおこなうためには、普段から被災時を想定した訓練をおこない、各部門担当者の役割や実施手順そのものに対する習熟度を高めると同時に、現在の課題を明確化する事が重要となります。

これにより、現状のBCPの改善点が洗い出され、その後の評価改善のフィードバックプロセスにBCMを進めることが可能となるのです。
事業継続マネジメント(BCM)における教育訓練のメリット
教育訓練を実施する主な目的およびメリットには、下記のポイントが挙げられます。
- BCP/BCMの重要性を気づかせ、知識を周知
- BCP(行動計画書)に定めた全体の流れ、担当者の役割、手順の認識
- 行動計画書や手順書の問題点や改善点を洗い出し、実態に即した計画の立案
- 演習や専門スキルの向上を目的とした訓練により、事業継続の実効性を向上
今回は、BCMにおける教育訓練の企画運営の手法から目的別手法までをご紹介します。
教育訓練の企画運営手法
まずは、BCMにおける教育訓練の企画運営の手法について解説します。
富士通総研では、独自に開発した教育訓練企画運営手法「ABCEM (Advanced Business Continuity Exercise Methodology)」に基づき、お客様の事業継続の実効性向上をはかるための教育・訓練を提供しております。
訓練実施に際しては、まず現状のBCMの成熟度を診断したうえで課題を確認、訓練対象ならびに目標(ゴール)を設定し、さまざまな手法のなかから、要件に合致した訓練方式を決定し、訓練シナリオの作成をおこない、事前準備を経て実際の訓練に入ります。
訓練実施後は、目標に対する達成度、および訓練により抽出した課題を整理し、BCPや手順、プロセス、対策などの改善策にフィードバックをおこないます。
富士通総研独自の教育訓練企画運営手法
「ABCEM (Advanced Business Continuity Exercise Methodology)」
| Step1: 要件整理 | ・現状のBCM成熟度と課題の確認 ・訓練対象範囲の確定 ・達成目標(KGI)と評価指標(KPI)の設定 |
|---|---|
| Step2: 実施計画策定 | ・訓練方式の決定 ・訓練シナリオの作成 ・評価項目と評価方法の決定 ・訓練実施詳細要領決定 ・責任者の承認 |
| Step3: 事前準備 | ・訓練用コンテンツの作成 ・会場及び必要備品の手配 ・参加者への案内 ・リハーサル |
| Step4: 訓練実施 | ・参加者説明 ・訓練実施運営 |
| Step5: 評価改善 | ・評価項目のチェックとフィードバック ・訓練結果まとめ(達成度評価) ・課題抽出、改善案作成 |
BCMにおける教育訓練の目的別手法
次に、BCMにおける教育・訓練の具体的な手法について解説します。
BCMにおける教育訓練には、集合型研修や機能確認のためのテスト、災害時を想定した模擬演習や、代替先の拠点に駆け付ける総合訓練迄、目的に合わせたさまざまな手法が存在します。

教育訓練の企画は、これらの手法を目的に応じて組み合わせて、組織の現状にとって最適なプログラムを設計することからはじまります。これらの手法は、組織のBCMの成熟度(BCP策定前、策定後など)に応じて、3つの段階に整理することができます。
- BCP(行動計画書)策定をおこなう前に、取り組みの重要性への気づきを得る
- BCP策定後に手順確認をおこない、習熟度を高める
- さまざまな想定状況におけるBCPの有効性を検証し、さらに発展させる

以降ではこれらの訓練手法のうち、主なものを2つご紹介します。
気づき・啓発を目的とした教育訓練「モックディザスターエクササイズ(災害模擬演習)」
欧米で最も一般的におこなわれている災害対策訓練のひとつです。参加者には事前に訓練シナリオ内容を公開せず、訓練開始時に運営者側で準備したさまざまな状況シナリオをリアルタイムに提示していきながら、その場の判断で行動していただき、最後に自己評価をしていただきます。たとえば発災から1時間といった時間軸で起きるさまざまな出来事を疑似体験していただき、緊急時対応をおこなうといった、ユニークな教育訓練です。
この方法は、発災時、およびその後の対処方法の計画性が「必要かつ重要なこと」である事を、BCMの重要性の理解と共に、みずからの気づきとして体感する事を目的としています。特に、BCMにこれから取り組む組織におけるメンバー間の意識付けに有効です。

訓練対象: BCMの重要性や必要性を体験/理解したい経営者、幹部社員、スタッフまでのあらゆる層を対象とします。
期待できる効果: 発災時およびその後の対処方法の計画性が「必要かつ重要なこと」である事を学び、BCMへの取り組みの必要性についての気づきを得ることができます。
実効性の検証を目的とした教育訓練「手順書確認訓練」
策定した手順書が、緊急時に手順通りに活用できるかを確認するための訓練です。各テーブルを別事業所と見立て、災害時における役割や情報連携手段などを確認のうえ、問題点を抽出し、改善策を検討します。

訓練対象: 作成/改訂した計画書(手順書)に規定している役割/手順/シートの有効性を検証する際、計画書に記された組織体制の構成員(責任者、担当者)を参加対象とします。
期待できる効果: 参加者は、計画書に定められた全体の流れ、担当者の役割、詳細手順を認識することができ、浮上した問題点を洗い出し、手順書の改善を講じることができます。
組織の事業継続対応能力向上に向けた教育訓練の活用
これまで述べてきましたように、教育訓練は、組織目標としてのBCMの理解/浸透をはかり、訓練結果を行動手順書に反映し改善をおこない、習熟度を向上させるサイクルを繰り返すことにより、BCMの実効性を高めていくための手段として必要不可欠なものです。
BCP策定後は、策定した戦略に従って事業継続性を高めるための対策を、要員、建屋、設備、情報システムなどリソースの観点から実施していきます。しかしながら、対策実施には多大な投資を伴うケースもあり、組織の置かれた経営環境によっては、対策完了迄に時間がかかる場合も少なくありません。対策半ばにして被災した場合のリスクは、経営者が残存リスクとして容認するという事になります。
このようなハード面における多大なコストを伴う対策に対し、教育訓練は、人材に対する投資ということができます。教育訓練により人の対応能力を強化するソフト面の対策は、莫大な投資を伴わず、危機管理に対する組織の基礎体力を向上させる最も有効な手段です。
教育訓練を継続しておこなうことにより、災害や事故のみならず、さまざまな危機に対して強い組織を作り上げ、組織の継続的な発展を実現することが、BCMにおける教育訓練をおこなう真の価値となり得るといえます。
富士通総研では、今回ご紹介した手法に基づくBCMの教育訓練を、お客様に提供いたしております。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
注記
- (注1)事業継続計画(BCP)とは :
- 不測の事態発生時にも、組織の重要な事業を必要な時間内に再開・継続するために必要とされる、発生時の行動や必要な事前対策の内容を定めた計画(あるいは計画文書)。
- (注2)事業継続マネジメント(BCM)とは :
- 事業継続計画(BCP)において定められた対策や教育訓練を確実に実行、および評価し、BCPを継続的に改善し維持管理するための経営管理プロセス。
- (注3)5W1Hとは :
- いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、の頭文字をとった5Wに、どのように(How)の頭文字を加えた造語。文章を構成する際などの基本的な要素として用いられ、マーケティングにおいても、戦略策定や実施内容の検討の際、意識して計画するとよいとされる。
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[2009年6月1日 公開]
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