新素材・ナノテク研究最前線で活躍する計算化学統合プラットフォーム「SCIGRESS(サイグレス)」

イノベーションの基盤となる素材・材料関連の研究開発のスピードは、日を追うごとに速まっています。その最先端を行くハイテク素材、ナノテク材料研究の進歩を支える新技術、富士通の計算化学統合プラットフォーム「SCIGRESS」の最新事情をご紹介します。
計算化学統合プラットフォーム「SCIGRESS」が求められる背景
今日、地球温暖化や、水や原油を始めとする埋蔵資源の枯渇など、私たちが克服すべき課題は山積し、産業界や教育機関の研究者には、革新的な科学技術研究や、それらに基づく商品が求められています。
イノベーションをもたらすうえで着目されているのが、研究開発の最上流部に位置する材料開発であり、文部科学省が策定した第3期科学技術基本計画においても「ナノテクノロジー・材料」はライフサイエンス、情報通信、環境とともに、重点推進4分野に位置づけられています。
しかし、最先端のハイテク素材やナノテク材料の研究開発では、長時間を要する実験や解析を試行錯誤しながら繰り返すプロセスがいまだに一般的です。膨大な開発期間やコスト、実験に用いる化学物質による環境負荷などの問題や費用対効果、他社に先駆けいち早く革新的技術を開発するという観点からも、研究開発の効率化が事業成功の鍵を握ると考えられています。
「SCIGRESS」の活用による数々の効果
これらの課題に対し、富士通が提唱するのが計算化学(シミュレーション)技術の徹底活用です。シミュレーションにより、以下のような効果が期待できます。
- 理論に基づく現象の正しい理解
- 所与の化学組成・構造に対する物性予測
- 大量候補化合物からのスクリーニング
- 直感的なデータ解析ツールなどを、研究初期段階に導入することで、不要な実験を削減し、研究開発を加速
これまでは、「さまざまな計算化学アプリケーションを用いて研究開発に役立つ指針を示すのは計算専門家、指針を参考に実験を実施するのは実験化学者」というように、分業体制がとられてきました。理由は、実験化学者が計算化学の手法を習得するには大きな労力を要し、それに見合う研究成果が得られにくいと考えられてきたからです。
しかし、計算化学理論およびITの進化により、計算の精度・速度は、実際の研究に効果を発揮するレベルに達しています。特に、原子・分子レベルを研究対象とするナノテク・材料分野では、実験化学者自身がこれらのツールを活用し、総合的な視点から研究を進めることにより、より短い期間内、また一定の予算内で成果を出すことが求められています。
「SCIGRESS」導入で変わるハイテク素材、ナノテク材料研究
富士通はこれまで、電池、半導体に至る材料研究開発の発展を支えるため、ITを活用したさまざまな製品やソリューションを、20年以上にわたり提供してきました。自動車、電機、化学・材料関連の企業・教育機関を中心に、幅広くご利用いただいています。
そして2008年7月、低分子から高分子まで幅広い領域の材料設計をカバーする、豊富な機能を備えた計算化学統合プラットフォーム「SCIGRESS(サイグレス)」の発売を開始しました。

「SCIGRESS」導入のメリット
研究ゴールへの確実なアプローチ
ナノテク材料分野の場合、求める性質を備えた新材料の探索には、その材料の原子・分子レベルでの性質を正しく理解したうえで、構造を精確に制御する必要があります。ナノ現象を再現する実験は、一般的に困難であり、多大な労力や時間を要します。特に、研究初期段階の明確な実験計画がない状態で、試行錯誤を繰り返すことは効率的ではありません。
シミュレーションの大きな強みは、結果に対する理論的な裏付けや解釈が、実験に比べ容易な点です。
シミュレーション結果に基づく現象の理解・仮説の設定と、明確な実験計画に基づく戦略的な実験を組み合せることにより、研究ゴールに到達する可能性が高まります。
スクリーニングによる開発期間の短縮
「SCIGRESS」を用いた候補化合物を効率よく選び出すためのスクリーニング機能により、研究開発が効率化されます。たとえばシミュレーションでは、1万個の候補化合物の性質についての計算が同時に実行できます。実験に先立ち、候補化合物をふるいにかけることで、開発工数やコストの削減、また環境負荷の低減にも寄与します。
「SCIGRESS」の主な特長
強力な製品ラインナップとシームレスな連携
多種の原子グループからなる複雑なナノ複合材料の構造や、それらが示す物性の解析をおこなうためには、複数の計算方法を組み合わせておこなうシミュレーションが威力を発揮します。
「SCIGRESS」では、高い拡張性を有するAPI(注1) を新たに開発。これにより、富士通が継続的に開発してきたアプリケーションに加え、パートナー企業や教育機関などが開発した最先端のアプリケーションを、同一GUI上においてシームレスに連携させることができます。

高速・大規模計算への対応
シミュレーションの世界では、常に計算時間の短縮が課題です。「SCIGRESS」では、ジョブ管理などを刷新し、計算ジョブを、自動的に空いているCPUに割り振る機能により、お客様のサーバやPCなどの計算機資源を最大限に活用したシミュレーションの高効率化を実現します。
また、一部の計算エンジンは並列計算に対応し、サーバ連携により、複数CPUを活用した大規模な並列計算を可能とします。
さらに、自動プロジェクト管理機能を利用することにより、スプレッドシート状の画面から、自動一括計算が実行できます。

研究目的志向による容易な操作性
これまで、計算化学ツールはもっぱら計算のエキスパート向けのツールでした。「SCIGRESS」では、「ease-of-use(使いやすさ)」を重要コンセプトと設定し、実験化学者にも使いやすいGUIを搭載しています。たとえば、得たい物性を選択すると、候補となるシミュレーション手順が自動的に表示されます。このようなナビゲーション機能により、従来、大きな負担であった計算手順の適切な設定を、システム側が強力に支援します。
また、今後は、研究に関係する各種データベースとの連携やデータ管理など、プラットフォームとして重要な、インフォマティクス機能(注2)の強化を図ってまいります。
最先端で活躍する「SCIGRESS」導入事例
ここでは「SCIGRESS」にアプリケーション機能として搭載予定の、Materials Explorer(マテリアルズ エクスプローラー)(一部機能搭載済)の事例をご紹介します。
首都大学東京 理工学研究科 ナノ物性研究室様の事例
真庭 豊(まにわ ゆたか)教授らが率いる研究グループは、10種類のガス(水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、酸素、窒素、メタン、エタン、二酸化炭素)について、1気圧以下の圧力、室温からマイナス180℃の温度範囲で調べた結果、低温あるいは高圧力になると、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(注3)内部の水分子が、雰囲気ガス分子と交換する「交換転移」を起こすことを発見しました。この仮説を裏付ける上で、本シミュレーションソフトウェアが重要な役割を果たしました。
本現象を用いると、水を吸着したSWCNTは分子選択的なナノバルブとして利用できることが明らかにされ、新たなガスセンサーとしての応用などが期待されています。

最先端のナノテク・材料の研究開発現場では 、今後シミュレーションと実験を組み合わせ、PDCAサイクルに基づき研究ゴールに着実に近づく手法に期待が集まっています。「SCIGRESS」は、第一線の材料研究開発を強力にサポートする、研究開発向け統合プラットフォームです。
[2008年9月22日 公開]
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