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エコ時代をシミュレーション・プログラムで生き抜く
VPSで実現する“作らないものづくり”

写真左から、佐沢研究員、橋間主任研究員、阿部研究員

地球規模のエコロジー世紀を迎えた今、エネルギー節約、廃棄物削減、環境保護などの観点から、“バーチャル”に熱い視線がそそがれている。製品開発の試作をする際、実機を作りながら不具合を確かめていく手法は、少なからず資源の無駄づかいや時間的ロスを生むし廃棄物も増えていく。この製作過程をバーチャルに置き換えることによるメリットに製造業の注目がよせられている。ものづくりにおいてデジタルデータを活用していくのは時代の趨勢とも言えるが、富士通はものづくりのライフサイクル全てにわたってITを活用する「バーチャルものづくり」を提案し、画期的なシミュレーション効果をもたらすVPS (Virtual Product Simulator:バーチャル プロダクト シミュレーター) を、その強力なツールとして推し進めている。本システムの開発者であるビジネスインキュベーション研究所 自律システム研究部の橋間正芳 主任研究員、佐沢真一、阿部秀城が本システムに対する思いを語った。


全ての人が簡単に操作できるシミュレーターを

現在は広く活用されているバーチャル・プロダクト・シミュレーター「VPS」だが、そもそもの発想の発端は1980年代から行ってきたロボット開発の技術的蓄積に始まっているという。1991年から約7年間、ロボットシミュレーションの研究に携わっていた橋間は、VPS開発の経緯についてこう語る。

「極限作業を行う宇宙ロボットやヒューマノイド型ロボットなど、未来に向けたロボットシミュレーションは非常に重要な研究ですし、富士通の技術的財産としても大きなものだと思います。この価値あるシミュレーション技術を、民間の製造分野に活かせないだろうか、という思いは当時からありました。1990年代に入り、PCの性能が向上し飛躍的に普及し、グラフィクスデータもPC上で扱えるようになってきた。それならば、設計者だけではなく、誰もが扱うことのできるシミュレーターを作ることによって、活用シーンはさまざまに展開するに違いない、という発想からVPSの開発が始まったわけです。」



ものづくりのためのフロントエンドシステム

VPSは1994年に開発着手し、1999年に最初のバージョンを製品出荷している。以来、順調に売上が伸び、現在では社内外への総出荷本数が3,000本を超える規模になっている。2001年にはIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)(注1)フォーラム主催のソフトウェア・プログクト・オブ・ザ・イヤーを受賞している。
VPSはマルチに発展していける柔軟性があり、ものづくりの現場において無限の可能性を秘めるツールだと橋間は言う。

「つまり、VPSそのものが常に変化し、進化するツールだということです。富士通のものづくりの現場からの意見、お客様の要望を反映することによってツールそのものが切磋琢磨されていくのです。」
VPSは常に現在進行形なのである。

正確で高速なシミュレーションを実現するために

橋間主任研究員

試作機に変わるものとして格段に有益な機能がなければ、バーチャルシミュレーターの意味がないことは明らかだ。VPSはさらに「誰にでも使いやすいツールである」ことをコンセプトにしており、他製品にはない特徴をも備えている。

まず、大きな特徴は、一般の3次元CADデータをコンバートしてシミュレーションモデルにできることだ。これにより、設計用のCADデータがあれば、デジタルモックアップ用の3次元モデルをわざわざ作る必要がない。手軽にシミュレーションモデルに移行することができ、時間と費用の節約に役立っている。
また、直感的操作で簡単にオペレーションできるようにしたことも大きな利点だ。設計CADデータを利用するため、その静止物を動かすために計算する機構シミュレーションを実装しなければならないが、ここにもVPSの特質が息づいている。

「VPSの特徴は、実物そっくりに動く仮想メカでさまざまな検証を行えることにあります。そのためには高速な機構シミュレーションが必要になりますが、摩擦などを厳密に計算していたらリアルタイムシミュレーションにはならない。複雑なダイナミクス(動力学)計算をあえて簡略化することで、機器構造のキネマティクス(運動学)をリアルタイムに再現できるようにしました。」
ただし、キネマティクスによる理想的な動きだけでなく、実際の機械で発生するガタや時間遅れがあった場合の動きなども再現できるように工夫しており、現場からの声を聞いて常に改良を続けていると、橋間は語る。

ものづくりの現場にもっとも役立つ機能を考えて

さらに、VPSで期待されているのが、動きを考慮したハーネス(ケーブル類)の設計支援のためのシミュレーションである。

佐沢研究員

研究員の佐沢はハーネス設計支援システムの研究開発にあたっている。
「3次元CADでモデル化できるものは、変形しないと考えられる剛体および設置が予測できる部品だけで、ワイヤー・ハーネスやバネ、ベルトなどの変形する部品は含まれていません。しかし、それらの柔軟物は実際に問題が起きやすい箇所でもあります。ハーネスの設計支援システムはいくつか開発されていますが、いずれも固定して動かないハーネスを対象としています。VPSの機構シミュレーションを用いれば、変形するハーネスを扱うことができます。」

複雑な計算式をあえて入れない、と語るのは、VPS上での高度で複雑な動きを実現する研究に従事している阿部だ。
「VPSはシミュレーション性能を高めることに主眼を置いています。そのために、複雑な計算をいかに軽くしてスピードを高めるかが設計の勘どころだと思っています。理論と実際のコーディングのギャップを埋めるため試行錯誤が続きますが、それは“シミュレーション道”としては必要なことなのです。」

逞しく広がり続けるVPSの将来性

VPSは製造現場にとって、強力な支援ツールになる。品質、コスト、スピードを改善できることはもちろんだが、情報共有による戦略的なIT活用が実現することだ。

阿部研究員

「設計者しか扱えないCADは、マーケティングや営業といった職種の人たちには無縁のものでした。しかし、誰もが扱えるVPSであれば、遠隔地間のレビューも手軽になりますから、さまざまな立場の人の意見を同時に集約し、その場でシミュレートしながら開発に反映することもできます。会社全体の負荷が減少し、より濃密なものづくり環境が実現するのです。」

橋間は、今後、自動車や船舶といった大きなモデルにもVPSを活用していくのが目標だと語る。
海外であっても同時に同画面を共有できるとなれば、ものづくりのスタイルは根底から変わる。今後、アジアの経済成長圏でVPSが広く使われるようになれば、かなりの効果を生み出すことになるだろう。
現在、VPSは機器製造のシミュレーションはもちろんのこと、それらのものづくりで得たノウハウを蓄積し技術の伝承を図ることにも利用されている。

阿部は動きが難しいロボットハンドのシミュレーションを研究していきたいと語り、佐沢は手術シミュレーションにもVPSが応用できるのではないかと考えている。つまり、VPSは教育や医療の分野でも活用していける可能性があるのだ。
VPSによる「バーチャルものづくり」は、富士通のものづくりに対するこだわりが凝縮されているとも言える。このシミュレーターは変化しながら成長する「生きている」ツールなのである。


(注1)IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

2007年8月6日 公開


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