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業務課題を見える化し、現場改革を推進する手法 ビジネス・フィールドワーク

写真左から、寺澤プロジェクト課長、岸本センター長、浜田、矢島

人を主役にして、プロセスとITの継続的改善で革新体質をつくるフィールド・イノベーション。最初のフェーズである「見える化」を促進する富士通独自のノウハウをサービス化したものに「ビジネス・フィールドワーク注1」がある。
これは文化人類学の調査手法であるエスノグラフィーをビジネスの業務改善に応用するためにカスタマイズしたもので、すでに現状調査・課題分析に数々の実績を上げてきている。
プロジェクトの中心である生産革新本部ソーシャルサイエンスセンターの岸本孝治センター長、寺澤真紀プロジェクト課長、矢島彩子、浜田順子に話を聞く。


現場は生きている そもそもの発端はそこから始まった

岸本孝治センター長

「富士通の営業スタイルはひとことでいうと実直。時には泥臭ささを感じるぐらい地道で真面目なところが特徴と言えるのではないでしょうか。」
とフィールドSE出身で、ソーシャルサイエンスセンターのセンター長をつとめる岸本は語る。

「お客様の業務のなかへ入って、丹念に業務内容を把握していく現場主義という姿勢が、富士通にはもともとありました。ただ、地道に業務を把握するといっても、お客様以上にお客様の業務を知ることはとうてい無理ですから、ITでお客様の要望に応えていくとしても、それはお客様のビジネス全体の改善にどのくらいつながるのだろうか、という思いがありました。」

「業務の効率化、業務改善、働く人たちの意識改革、という『全体最適』を考えたときに、ITとは別の視点で『現場を知る』ことが必要だと感じました。そんなときに、社会科学分野の先駆者である米国のPARC社注2と協業した、富士通のSIプロジェクトの現場で『本質的な課題を探っていく』という共同プロジェクトの中で、エスノグラフィー注3という手法に出会い、これこそ生きた現場を知るための最適な手法ではないかと思い当たったのです。」

寺澤真紀プロジェクト課長

そして、エスノグラフィー手法を実際にお客様の業務に応用するために、他社に先駆け、フィールドワークのトレーニングや実践を始めた。

「フィールドSEが実際に現場で使用できる確かな“武器”とするためには、エスノグラフィーを標準・体系化することが必要でした。カスタマイズして現場で使えるように作り上げていったのが、現在のビジネス・フィールドワークです。」

「ビジネス・フィールドワークとは、お客様の現場での実態や工夫・課題・背景をフィールドワークにより可視化し、さまざまな施策立案に貢献するサービスです。現場を観察し、まずその場の仕事の状況を偏見を入れずに事実のまま詳細に記録していくという点が、業務の本質にせまるのに有効な手法と思われました。」
お客様の現場において、ビジネス・フィールドワークのチームリーダーである寺澤は語る。

「とはいえ、このビジネス・フィールドワークという手法が本当にお客様先で通用するのかどうか、当初は不安でした。なにしろ初めてのことでしたから。丸一日、お客様先で観察をさせていただき、これで良かったのだろうか、と自問自答しました。
でもその後、フィールドワークの記録をおこして、そのお客様の業務に詳しいフィールドSEの大先輩にみせたところ、面白い!という反応をもらいました。その時に、これはお客様の業務を知るためのやり方として通用するものだという実感を持ったのです。」

事実をありのままに見るということの価値と難しさ

「もちろん富士通は、20年以上前からさまざまな手法を駆使してお客様先の業務改善に取り組んできました。現場における問題点をお客様から聞きだすためのインタビューなどもおこなってきています。」
ビジネス・フィールドワークはいままでのアプローチと比較すると、非常に公平で先入観のない分析ができる手法です。」と寺澤はいう。

矢島彩子

富士通研究所でECOWインタビュー注4を開発した実績をもってこのプロジェクトメンバーになったのが矢島である。

「お客様の現場で役立てるものですから、技法だけを開発しても実際に使われなければ意味がありません。つまり、理論起点から現場起点に置き換えていかなければならないと思いました。」

心理士の資格も持つ矢島は、インタビューの際の心持ちにも気を配る。
「業務改善のインタビューというと、ともすればネガティブなマイナス要素の質問から入ることが多いようです。どんなことが問題ですか?など。しかし、そればかりではなく、その人がおこなっている工夫や、こうしたい・こうであってほしいという希望などポジティブな質問をすることも重要だと思っています。」

ビジネス・フィールドワークの特徴のひとつに「事実をありのままに観察し、主観を入れないで記述すること」というのがある。
「時に何百ページにもおよぶ膨大な事実の記述は、その後の『気づき』の視点を加えるにも、お客様に現状を認識していただくためにも大変重要な価値あるナマの素材です。ですが、主観を入れないということはことのほか難しい。これをどうクリアしていくかが、やりがいでもあります。」

浜田順子

「ありのままを記述するといっても、お客様の業務内容を全く知らなければ、形にすることは困難ですから、お客様のビジネスを理解するための勉強はしなくてはなりません。しかし、あまりにもお客様の業務に精通してしまうと、一種の馴れが生じ、きっとこうだろうという推測で、観察と分析がおこなわれてしまうことがありますし、見落としもでてきます。
ですから、私たちフィールドワーカーは常に中立的な姿勢でいることを一番に心がけています。」
とフィールドSEへのフィールドワーク教育も手がける浜田はいう。

「お客様の業務の現場(フィールド)に訪問して最初におこなう作業に、お客様の業務内容をありのまま観察し記述するシャドーイングがあります。これはとても大切なプロセスで、短時間でお客様と良好なコミュニケーションを築いていかなければ、スムーズに作業が進まないものです。
私たちは“弟子入り”と称し、いわばお客様が師匠、私たちが弟子、という関係を築き、お客様の業務内容を教えていただくという姿勢で、よい関係を築く努力をします。また、ほどよい距離感を保つ事も大切です。
嫌われるのは論外ですが、あまりにも親しくなって感情移入してしまうと、正確な事実の把握に影響することもありますから、中立的に一定の距離感を保つようにしています。」


ビジネス・フィールドワークの流れ

多面的視点をもって見える化を実現するビジネス・フィールドワーク

「現場は生き物である、事実をありのままに見るということの価値は非常に大きい」とフィールドワーカーたちは口をそろえていう。

「報告書には冷静に見れば「あたりまえ」の事が記載されることもあります。しかし、ビジネス上の習慣になっていることは変えにくい。もっとスマートなやり方があるのではないかな、と疑問に思っても、日常の煩雑さに紛れてしまう。業務改善のためには、違うアングルから見る、色々な光を当てる、第三者の視点をいれる、ということがとても重要です。」

「このビジネス・フィールドワークが実際にお客様の業務改善に役立ち、『良くなった!』『効果が出た!』などの声をお客様からいただくことが私たちの一番の喜びであり、自信につながります。そういう声をたくさんいただけるよう、ひとつひとつのプロジェクトを実直に丁寧にすすめていきたいと思います。」と寺澤はいう。

浜田は、「ビジネス・フィールドワークという言葉が市民権を得て有名になって、お客様から自分が指名されるようになりたい」と目標を語り、
矢島は、「富士通を発信元として、世の中全体へビジネス・フィールドワークが広がるようにしたい」と考えている。

「ビジネスの場でいろいろな方にお会いしてお話を聞くと、やはり、ビジネスの要は『人』であることをひしひしと感じます。ビジネス・フィールドワークは異文化を理解するために考えられたエスノグラフィー手法がベースとなっていますから、常に『人』を起点にして考えます。最終的には人とITとプロセスを一体化して、全体最適化へと道をひらく。ビジネス・フィールドワークはまさに、フィールド・イノベーションに繋げていく実践手法だと思います。」とプロジェクトをまとめる岸本は語る。

フィールドワーカーたちの野望は大きい。「人が中心」というこの手法の特徴が、フィールドワーカー自身にも活気を与えているようである。

このビジネス・フィールドワークの手法が富士通の新しい顔として定着し、さまざまな業務現場で活用されていくことにより、“人が主役”の本来的なビジネス世界が展開されていくことを、フィールドワーカーたちは願ってやまない。

注記

(注1)ビジネス・フィールドワーク
PARC社の社会科学者の豊富なフィールドワーク経験と、富士通研究所の持つインタビュー手法、業務知識などを組み合わせた手法。
(注2)PARC社
PARC (Palo Alto Research Center, Inc.)米国カリフォルニア州にある、ゼロックスコーポレーションの100%出資子会社。情報アーキテクチャーの研究開発を主とする。ユーザーインターフェース、オブジェクト指向プログラミング、ユビキタスコンピューティングなど。
(注3)エスノグラフィー
異なる文化の地やさまざまな生活の場などに入り込んでそこで実際におこなわれていることを生々しく表出し、事実起点で分析する手法
(注4)ECOW(エコー:Ethno-Cognitive Interview for Work practice understanding)インタビュー
富士通研究所で開発したインタビュー技術。現場で働いている人の「業務に対する意識(負担感/リスク意識など)」に主眼を置き、現場の業務実態と人の考え方や意識を表出する。
現在、ソーシャルサイエンスセンターでは実践を通じて整備をおこない、分析、運用方法を加味したインタビューツール「BFWインタビュー・ナビ」として活用している。
PDF業務把握インタビュー手法(454KB):雑誌FUJITSU 2007-5月号

2008年4月25日 公開


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