第6回 医療サービス業
人事労務コンサルタント/社会保険労務士 金子賢一
業種別労務管理シリーズ、最終回の今回は、医療サービス業の労務管理です。
医師・看護師不足、医療制度改革や診療報酬の改定など病医院を取り巻く経営環境は非常に厳しい状況にあります。
ここでは医療サービス業の特殊性を考慮し、労働時間管理を中心にその他重要項目についてまとめてみました。
1. 労働時間管理
(1) 1カ月単位の変形労働時間制
病院や診療所などの医療機関ではレセプト業務が月初めに集中したり、曜日や時間帯により業務の繁閑が生じたりして固定的な勤務体制では対応できない場合があります。そのような場合、1カ月単位の変形労働時間制を導入することにより、法定労働時間の範囲で繁閑に応じた柔軟な勤務体制を採ることができます。
1カ月単位の変形労働時間制とは、1カ月以内の変形期間を平均して1週40時間(常用労働者が10人未満の特例事業場は1週44時間)を超えない範囲であれば、1日8時間、1週40時間(同前、以下、同じ)という労働時間の規制を超えて労働させることができる制度です(労働基準法第32条の2)。業務の繁閑や特殊性に応じて労働時間を柔軟に配分することができます。
1カ月単位の変形労働時間制を導入するには、就業規則その他これに準ずるもの又は労使協定により次の要件(就業規則などの場合は、1~3、5・6、労使協定の場合は、2~5、7)を定める必要があります。常時10人以上の労働者を使用する事業場の場合で就業規則を変更して変形労働時間制を導入する場合には、変更後の就業規則を、労使協定による場合は、これを所轄労働基準監督署長へ届け出なければなりません。
- 1カ月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない定め
- 変形期間
- 変形期間の起算日
- 対象となる労働者の範囲
- 変形期間の各労働日の労働時間
- 変形期間の各労働日の始業・終業時刻
- 協定の有効期間
(注)
5、6については業務の実態から毎月異なり、就業規則などに具体的に記載することが困難な場合には、毎月の勤務割による旨を定め、事前に各労働者に周知すれば足りる。
変形期間を1カ月とした場合、1週を平均して40時間以内となる変形期間の法定労働時間の総枠は、「法定労働時間×変形期間の歴日数÷7」で算定されます。具体的には31日の月では177.1時間、30日では171.4時間、28日では160.0時間となります。
変形労働時間制を採用していても次の時間は時間外労働となり、割増賃金を支払う必要があります。
- 1日の時間外労働 : 就業規則などで1日8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
- 1週の時間外労働 : 就業規則などで1週40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(イで時間外労働となる時間を除く)
- 変形期間の時間外労働 : 変形期間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(イ、ロで時間外労働となる時間を除く)
(2) 過重労働
一般に医療機関というと労働時間が長く、休みも十分に取れないという印象を受けます。最近では医師や看護師不足で医療現場の労働時間はますます長時間化しており、過重労働による健康障害には十分に留意する必要があります。
過重労働による脳・心疾患については、発症前1カ月から6カ月にわたって1カ月当たり、おおよそ45時間を超える時間外労働が認められない場合には、業務と発症との関連性が弱いと判断されますが、おおよそ45時間を超える時間外労働が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まるものと判断されます。発症前1カ月間におおよそ100時間を超える時間外労働が認められる場合、又は発症前2カ月から6カ月にわたって1カ月当たり、おおよそ80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと判断されます。
最近では、うつ病やパニック障害などの業務上の精神障害を発症する労働者が後を立ちません。精神障害についても過重な責任の発生や職場環境の変化といったストレスだけでなく、過重労働がその一因になっています。
時間外労働は原則として、労働基準法の規定による延長時間の限度(年間360時間)の範囲内でおこなわなければなりません。繁忙期などは労使協定の特約条項によりこの基準を超えて労働させることもできますが、業務分担の適正化や勤務体制の見直しなどにより過重労働にならないように十分に配慮することが必要です。
(3) 宿直勤務
宿直勤務とは、所定労働時間外における定期的巡視や緊急事態に備えての待機などを目的とする断続的で労働密度の薄い勤務形態です。したがって夜間において通常の勤務をおこなう夜勤とは異なります。
宿直勤務について以下の条件を満たし、所轄労働基準監督署の許可を受ければ、所定労働時間外や休日に宿直勤務をさせても時間外・休日労働割増賃金を支払う必要はありません(法第41条、昭和23年9月13日発基27、昭和63年3月14日基発150)。
- 常態としてほとんど労働する必要のない勤務で、定期的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機などを目的とするものであること
- 宿直又は日直の勤務に対して相当の手当が支給されることを要し、宿日直勤務1回の宿日直手当の最低額は、宿日直勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないものであること
- 宿直又は日直の勤務回数については、原則として宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度とすること
- 宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置をすること
医師、看護師の宿直勤務については、その業務の特性から、次のような取扱細目が定められています(昭和24年3月22日基発352)。以下の条件を満たしていない場合には、その労働は宿直勤務とはみなされず、時間外労働又は交替制による勤務として取り扱わなければなりません。
- 通常の勤務時間の拘束から、完全に解放された後のものであること。通常の勤務時間終了後もなお、通常の勤務態様が継続している間は、勤務から解放されたとはいえないため、その間は時間外労働として取り扱わなければならない
- 夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外は、特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務(病室の定時巡回、異常患者の医師への報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温など)に限ること。したがって、昼間と同態様の業務は含まれない
- 夜間に充分睡眠がとりうること
- 上記以外に、一般の宿直許可の条件を充たしていること
(4) 研修やQC活動の時間
多くの医療機関では医療サービスの向上を図るため所定労働時間外に職員の研修やQC活動を実施しています。研修などについては、参加、不参加がまったく本人の自由である場合には、研修などは労働時間ではありません。一方、研修などへの参加が強制されている場合や強制とは言えないまでも、参加しないとこれを理由に人事労務管理上不利益に取り扱われる場合は、労働時間になります。
(5) 実習時間
看護師養成所の生徒の実習については、教育の目的でおこなわれるため原則として労働時間になりません。ただし、形式的には実習と称しても実際には看護要員としてカウントして勤務シフトに組み込んでいる場合には、医療機関と実習生との間に使用従属関係が認められ、労働時間となり、賃金の支払いが必要になることがありますので注意してください。
- 第5回 情報サービス業
- 第6回 医療サービス業
ジャーナル最新のテーマ
お客様の声をお聞かせください

富士通ジャーナルに掲載している記事やコンテンツについてのご意見・ご感想を、ぜひお寄せください。
お寄せいただいたご意見・ご感想については、富士通からの回答をお約束するものではありません。ご了承ください。
なお、富士通からのご回答を必要とするお問い合わせについては、
富士通ジャーナルに関するお問い合わせをご利用ください。





