業種・業態 現状の課題と今後の取組
第7回 ソフトウェア業の現状と今後の取組み
中小企業診断士・ITコーディネータ 谷川 隆一
1. 業界の現状
「証券取引法」が「金融商品取引法」として生まれ変わり、それに伴い上場企業において「内部統制報告書」の作成が義務化されることになりました。IT業界ではこれを会計情報における「情報化」の好機として大きく注目しています。本来これは、新たな情報化というよりも、すでに情報化が企業経営と切っても切り離せないほど企業内部に定着していることを示しており、情報システムを単にブラックボックス化するのではなく、内在するリスクはちゃんと把握することが経営者にも求められているものです。
「情報化」を行うためには「物」である「ハードウェア」(コンピュータ、プリンタなど)とともに、それらのハードウェアを制御し、コントロールする「ソフトウェア」(オペレーティングシステム、アプリケーションソフトウェアなど)が必要です。そのソフトウェアの開発・製造を担うのが今回ご紹介する「ソフトウェア業」の役割です。
しかし、一口に「ソフトウェア業」と言ってもその範疇は広く、大規模なものは大型コンピュータ用のソフトウェアから小さなものとしてはパソコン用のソフトウェア、また、デジタルカメラや携帯電話などの内部で動作しているソフトウェアの開発まで、日常生活のあらゆる場面でソフトウェア開発が行われています。
ソフトウェアの製作は「物づくり」としては特殊で、基本的に必要なものはコンピュータとそれを操る人間だけです。機械で自動的に製造されるものではもちろんなく、そのため、製造ラインがあるわけでもなく、また、労働集約的な業務であり、かかるコスト(原価)の多くが「人件費」になっています。ソフトウェアの開発生産性も日進月歩で進んでいますが、あくまで人間が考えながら商品を作りこむという業種です。
2. 業界構造
「日本標準産業分類(総務省)」の定義では、「ソフトウェア業」を含む「情報サービス業」は次のように分類されています。
| 中分類 | 小分類 | 細分類 | |
|---|---|---|---|
| 39. 情報サービス業 |
391. ソフトウェア業 |
3911. 受託開発ソフトウェア業 |
一括受託企業 |
| 派遣企業 | |||
| 3912. パッケージソフトウェア業 |
|||
| 392. 情報処理・ 情報提供サービス業 |
3921. 情報処理サービス業 |
||
| 3922. 情報提供サービス業 |
|||
| 40. インターネット 付随サービス |
「情報サービス業」というくくりでは、ソフトウェアを開発する「ソフトウェア業」や、情報やデータを加工し付加価値をつけてサービスを提供する「情報処理業」、「情報提供業・調査業(シンクタンク)」などもあります。「ソフトウェア業」も大きくは「受託開発」、「パッケージ開発」に分けられ、これらの業務内容により、ソフトウェア業の収益構造も、顧客も、必要な経営資源も異なっています。
最近では、単に「パッケージソフトウェア」とよばれる自社で作成したソフトウェアの販売を行うだけではなく、ASP(Application Service Provider)と呼ばれる、ソフトウェアの利用サービスを安価に提供する「サービス業」もあり、これは分類上「インターネット付随サービス」に分けられています。
「ソフトウェア業」は、「ソフトウェアハウス/ソフトハウス」と呼ばれる場合もあります。この場合の「ソフトウェア業」では、ソフトウェアの開発のみを行う中小企業が多く、「システムインテグレーション」やハードウェアの販売などを行う大手メーカーと区分されます。逆に、設計・開発から導入・サポートまで行う大手メーカーは「システムインテグレーター」とも言われます。
また、「ソフトウェア業」は企業の「種類」で以下のように分けられます。
| 通信系 | NTT関連のソフト開発企業 |
|---|---|
| コンピュータメーカー系 | 国内のコンピュータメーカーのソフト開発企業 |
| ユーザー系 | ユーザーである金融、商社、製造等の大企業の情報システム部門が独立した企業 |
| 外資系 | 世界市場で活躍する外国のコンピュータメーカーやソフト会社の日本法人 |
| 独立系 | 個人で創業したIT関連企業。多くの中小ソフトウェア企業が独立系 |
独立系ソフトウェア業の多くが中小企業であり(以降、「ソフトウェアハウス」と記載します)、重層的な「下請け構造」を下層から支えています。多くの零細なソフトウェアハウスは売上げが3千万円以下です。
多くのソフトウェアハウスは「受託開発」を行っていますが、実際には人員の「派遣」や(相手先企業での)「常駐」を求められることも多く、ソフトウェアエンジニアの人材派遣業を主な事業としている企業も多く存在します。
しかし、少人数の派遣、特に1名のエンジニアを依頼企業へ派遣することは、派遣される社員にとっても、ソフトウェアハウスにとっても本来は望むべき姿ではありません。それは、1名の社員の派遣では、社員の教育やキャリアプランなどが検討しにくく、人材の定着率低下や社員のモチベーション低下にもつながる場合があるからです。
3. 業界の市場規模・事業所数動向
全国の情報サービス業(情報処理業を含める)に関する事業所数と売上高の全国分布は経済産業省の特定サービス産業実態調査(平成16年11月実施、平成17年11月発表)によると次のようになっています。
図表-1のように全国で7000程ある事業所の30%が東京に集中しており、大都市圏に半数以上の事業所が集中していることがわかります。
また、図表-2の売上高の分布を見ると大都市圏で80%の売上げを上げていることがわかり、情報サービス業が都市部に集中し、1事業所当たりの売上げも都市部が大きいことがわかります。
図表-1 情報サービス業の都道府県別事業所数

図表-2 情報サービス業の都道府県別売上高

同じく特定サービス産業実態調査(図表-3,4)により時系列に見ると売上高は年々増加しているものの、事業所数は平成10年をピークに減少傾向がみられます。実態としては、中小規模や個人事業による事業所の減少が大きく、情報サービス業界では規模の拡大化傾向が進んでいると言えます。
図表-3 情報サービス業の事業所数(時系列)

4. 業界における特徴的な傾向
4.1. 重層構造
ソフトウェア業の特徴として、人員不足が発生した際に外部同業者への業務委託の度合いが高いことが挙げられ、業界自体が重層構造になっていることが挙げられます。しかし、派遣社員の質はばらつきも大きく、できることならば社内で育成することが望まれています。
現在のソフトウェア業界全体としては慢性的な人材不足が続いており、情報化の進展にあわせた人材の育成がたいへん重要な課題となっています。ソフトウェア業界では優秀な人材をどのように育てるかが今後の重要な課題となっています。
4.2. オフショア開発
最近では、ソフトウェア業界の特徴として「オフショア開発」と呼ばれる、中国、インド、ベトナムなどのソフトウェア開発者を活用した海外でのソフトウェア開発の傾向が見られます。これは、中国・インド・ベトナムなどにおける人件費が安いことに起因しており、日本で開発するよりも数分の一で開発ができる場合もあります。(ただし、言語の問題もあり、バイリンガルの日本駐在の外国人などは単価が高く、設計部分のコストはそれほど安くはありません)。そのため、多くの中小ソフトウェアハウスは今後単なるプログラミングなどソフトウェアの作成から、設計など上流工程の業務への取り組みや、特殊な技術による専門性の高い開発に注力し、差別化を図っていかなければ生き残れない時代になってきたと言えます。
4.3. 売上げ構造と利益構造
この業界(主に受託開発の場合)の特徴として、見積精度が悪いと不採算プロジェクトとなり、大きな赤字を出すことがあります。仕事量はあるのに採算が悪い会社の場合には、見積時の作業量と実際の開発にかかる作業量の誤差が大きい場合があります。新しい分野や新しい技術に取り組む場合には特に見積の誤差を生じることがあり、それが企業の利益を左右するケースがあります。見積の精度を上げるには技術の理解とプロジェクトの進め方の技術が重要であり、多分に経験を有する技術者(プロジェクトマネージャーまたはシステムエンジニア)の存在が大切になってきます。大手企業では優秀なシステムエンジニアやプロジェクトマネージャーを社内に抱えることが可能ですが、中小のソフトウェア会社の場合には、作業量を的確に見極め、スケジュールの管理を行うこれらに人材の確保が非常に重要である。製造業・小売業で言えば、商品別やカテゴリー別のコスト管理、収益管理によって収益性を判断することがありますが、ソフトウェア業では、案件単位、プロジェクト単位で採算性が取れているかどうかのチェックが重要です。
価格決定権は中小企業ほど自社に決定権を持っているといわれており、もともと大手より低価格な料金でサービスを提供している傾向があります。
「中小企業の財務指標」(中小企業庁)では、売上高総利益率は60%程度となっており、また、売上げの60%は販売管理費、40%は人件費となっています。
図表-4 情報サービス業の売上高(時系列)

4.4. 費用の回収
ソフトウェア業界における費用の回収期間は比較的短く、概ね3ヶ月未満で費用の回収が行われています(特に受託開発ソフトウェア業)。
しかし、大きな案件(プロジェクト)の場合には、建設業のように幾つかの段階ごとに費用を回収することが多くなります。通常コストとしては人件費が大部分を占めており、人件費の支払が翌月支払とすれば、案件ごとに支出と入金のタイミングは数ヶ月ずれることになります。技術者を派遣する場合には、概ね作業の翌月には作業代金が支払われるため、技術者派遣を中心とした業態では、資金繰りを比較的安定して行うことができます。この点が技術者派遣に偏ってしまう一つの要因と考えられます。しかし、人材の派遣は、例えば1名を派遣する場合には、その従業員の管理はほとんど派遣先の管理下になり、従業員の会社に対する帰属意識・愛社精神の低下につながることがあります。
5. ソフトウェア業の課題
5.1. 人材派遣
どの中小ソフトウェア業(ソフトウェアハウス)でも、いわゆる「エンジニアの人材派遣業」という形態をきらい、受託開発や自社独自のパッケージ開発を目指したい、という意向を持っています。しかし、自社開発のためには、資金を自分で調達する必要もあり、現業の受託や人材派遣などの業務からなかなか離れられないのが現実です。また、人材派遣型経営は、毎月の売上げを確実に読むことができるので、投資・持ち出しが必要な自社パッケージの開発に比べるとどうしても人材派遣の経営に偏りがちになります。
5.2. 人材の育成
ソフトウェア業の大切な「経営資源」は自社の抱える「エンジニア」であり、エンジニアの保有するスキルです。この業界では、常に新しい技術の研究と市場性の見極め、技術習得の必要性があります。一般にソフトウェア業、とくに中小のソフトウェアハウスにおける人材育成はオンザジョブトレーニングが中心であり、実際の仕事を通して技術の習得を行っています。しかし、実際には、中小のソフトウェアハウスでは社員数も少なく、多忙のため、先輩からの技術指導の時間を十分に取ることができていません。そのため、若手も体系的に技術を習得できていないというのが現状です。
5.3. 営業力
ソフトウェア業の営業は単なる「物売り」とは異なり、受託サービスや一連の業務を合理化するパッケージなどをどのように提供するのか、熟練エンジニアの判断をうまく使いながら技術者と連携して営業する必要があります。そのため、営業のスキルによりエンジニアにかかる負荷も大きく異なってきます。特に技術志向が強い会社では、「いいものを理解できないのはお客の方が悪い」という態度も見られ、このような会社では、抜本的な営業力の強化が必要になるでしょう。
6. ソフトウェア業で望まれる対応策
6.1. 顧客志向の取り組み
技術力の高い企業によく見られる傾向ですが、高い技術力を持っているが故に、顧客ニーズからかけ離れているケースが見られます。開発を受注している発注元の満足度、システムを実際に利用しているユーザー、自社のパッケージを利用している利用者、これらのお客様の満足度や改善点などを取り込み、自社の仕事・商品の客観的な評価と自社が進むべき方向を常に探っていることが必要です。そのためには、やはりお客様とのコミュニケーションの要である営業力の強化が重要となります。小規模なソフトハウスにとってエンジニア以外の人材はコスト面で重荷になりますが、エンジニアの負荷を軽減し、売上げと作業量のバランスを管理するためにもコスト意識を持った営業機能が必要です。
6.2. 業務ごとの採算性チェック
ソフトウェア開発プロジェクトによく見られる課題として、不採算プロジェクトの発生があります。この課題に対応するために、キーとなるシステムエンジニアの作業比率に応じた人件費を案件ごとの人件費に配賦するという管理手法があります。あまり細かなコスト配賦は間接業務の増大につながりますが、簡易な方法でも案件ごとのコストを把握することは重要です。これはプロジェクト会計などとも呼ばれていますが、あまり精緻にして逆にその管理コストが最大の費用である、という笑い話にならないように簡易に行うことが肝心です。
また、見積誤差を防ぐためにはプロジェクトを、幾つかの細かなフェーズに切って進めることが大切です。フェーズごとに、新規開発の範囲はどこまでで、既存の契約範囲内の作業が何であるかを顧客との合意を持って進めるプロジェクト体制が必要です。これはベテランのエンジニアに求められる技術ですが、営業にも同様の技術習得を目指すことが大切です。昨今、「内部統制」という言葉を耳にするようになりました。財務的な透明性、説明責任を果たすことの重要性が叫ばれていますが、ソフトウェア業における収益上の最大のリスクはプロジェクトの採算性が当初の想定とずれてしまうことではないでしょうか?ソフトウェア業における内部統制においては、いかにプロジェクトの収益性を改善しているか、リスクを回避している、という視点も今後注目されることでしょう。
6.3. 営業力の強化
高い技術を有しているが、営業の人員も少なく、社長の人脈で大手ソフトウェア開発会社からプロジェクトの一部を下請けの形で受ける受託開発が中心、という企業がソフトウェアハウスではよく見られます。独自の商品を幾つか開発してもなかなか売上げに貢献しないという話しはよくあります。受託開発においても、また、特定の業務に関するパッケージ販売においても、買い手や利用者にとってどのようなメリットがあり、どのような「コスト削減」または「売上げの向上」に貢献するかが明確ではなかったりする場合が多くみられます。開発側の考え方ではなく、利用者側の立場に立って具体的にどのように利用し、どのような改善効果を生み出すのかを従来比で説明する資料を準備し、それを営業ツールとして顧客に説明する体制が大切でしょう。
7. 今後
得てして、ソフトウェア業においては、仕事が担当者「個人」にくっついて動くということがあります。「あのエンジニアがついてくれるのならば今回のプロジェクトをまかせましょう」などというのはよくある話です。近年、インターネットプロバイダーやASP業者などの利用では、SLA(サービスレベルアグリーメント)が注目されています。より客観的に提供サービスの「品質」を保証するために、パフォーマンスや稼動能力・処理能力、平均応答時間、故障のリカバリー時間などを客観的に数値化・可視化し、サービスの均一化をすることが求められています。
また、J-SOX法が注目を浴びており、財務における様々な説明責任のためにITの有効活用が求められています。ソフトウェア業においては今後いままで以上に、情報化による財務システムなどの社内情報の可視化が重要になってくるでしょう。そしてこのような分野におけるソフトウェア業の一層の業務拡大が期待されます。
著者プロフィール
谷川 隆一- 中小企業診断士・ITコーディネータ
日本大学大学院数学専攻修了
精密機械メーカーで研究開発・ソフトウェア開発、外資系ソフトウェア会社で技術サポート、マーケティングなどを担当。中小企業診断士資格取得後に独立。現在自治体の経営相談、中小企業支援センターでの創業支援などに従事。
- 第6回 婦人ファッション小売業の動向
- 第7回 ソフトウェア業の現状と今後の取組み
- 第8回 冠婚葬祭業
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