業種・業態 現状の課題と今後の取組
第6回 婦人ファッション小売業の動向
中小企業診断士 中村 俊雄
1. 婦人ファッション小売業を取り巻く最近の動き
婦人ファッション小売業の市場規模は、平成16年で約7兆8,000億の規模と推定される(図表-3)。平成14年と比較すると、0.7%増とわずかながら増加が見られる。規模・業態別では、大型店の百貨店や総合スーパーが減少し、婦人服専門店で増加が見られる。
最近の婦人ファッション小売業を取り巻く環境変化(図表-1)をいくつかの断片的な動きを通して捉えてみる。
【事例1】
婦人服大手アパレルメーカーの東京スタイルは、今後の事業戦略の第1の柱である「商品力と営業力の一層の強化」の中で、「当社独自のSPA事業の推進」を掲げている。
具体的には、「当社はこれまで、SPA事業の推進を大きな柱として掲げ、SPAブランドの開発や主だったブランドのSPA化に取り組んできました。今後もSPA型新ブランドの開発と展開について積極的に取り組んでいく考えです。また、当社独自のセレクトショップの展開など、M&Aの手法を含めて、SPA事業を本格的に進めていく予定です。」
(出典:東京スタイルホームページより http://www.tokyostyle.co.jp/)
SPA(speciality store retailer of private label apparel=製造小売業)事業については、東京スタイルをはじめ多くのアパレルメーカーが積極的に推進している。
【事例2】
大手アパレルメーカーのサンエー・インターナショナルは、2006年秋冬シーズンからバッグや財布、アクセサリー(ネックレス等)などの婦人向け服飾雑貨の新規事業「ユニック」を立ち上げる。顧客ターゲットは、「洋服を着替えるように服飾雑貨をおしゃれに使い分けたい」と感じるすべての女性たちに設定し、ファッションビル及びターミナルビルへ出店展開する。
(出典:サンエー・インターナショナルホームページより http://www.sanei.net/)
大手アパレルメーカーのワールドは、「今や雑貨は、流行を牽引するアイテムとして欠かせない存在」として雑貨アイテムを重視している。ターゲットやチャネル別に雑貨ブランドを充実させ、高感度型から価格訴求型まで展開している。また、1ブランドでの単独出店から、ストアにおける編集型コンテンツとして多様な展開を実施している。
(出典:ワールドホームページより http://www.world.co.jp/)
大手アパレルメーカーが団塊ジュニア層(30代後半)にターゲットを絞って新ブランドを立ち上げる動きもみられる。
≪ポイント≫
大手アパレルメーカーのSPA事業化、セレクトショップの成功、雑貨アイテム重視の傾向、ターゲット絞込みの傾向などの動きは、従来型の品揃え型専門店にとって脅威に映る。一方で、従来の品揃え型専門店が、今後の経営革新する方向を明確に示していると言える。
2. 婦人ファッション小売業の現状と問題点
図表-1 婦人ファッション小売業を取り巻く環境変化

次に、婦人ファッション小売業を取り巻く環境変化(図表-1)の背景を探るために、従来の品揃え型専門店の「現状」と現状で発生している「問題点」を発注から販売までの流れに沿って整理してみる。
【現状】
発注は、販売時期より遡って半年前に開催される展示会にて見込みで実施する。
【問題点】
半年前の展示会の時点で、サンプル商品や絵型マップだけを前にして発注することは、かなり難しい。特に、同アイテム(例えば、ジャケット)の型番ごとに優劣をつけることは難しく、優劣をつける判断資料がなければどうしてもリスクを回避した平均的な発注になってしまう。ところが、いざシーズンが到来し実売時期になると、型番ごとの動きは、良し悪しがはっきりしている。平均的な発注は、結果的に売れ残りロスと機会ロスの双方を生じてしまう。したがって、実売を予測した発注が望まれる。そのためには、型番ごとに優劣を判断する資料が必要となる。例えば、前年の型番ごとの売れ筋データ(単品管理データ)、お客様の早期受注会などによる事前予約データ、購買されるお客様の嗜好や要望に基いて想定した顔の見える見込み発注データなどの資料整備が必要となる。
【現状】
納品は、アパレルメーカーが展示会時に提示した納期にしたがって実施される。
【問題点】
衣料品は天候によって商品の実売時期が左右されやすい。実売時期が納期より前倒しになれば機会ロスを生じ、実売時期が納期より後ろになれば過剰在庫を生じる。また、北から南まで全国的に店舗展開している小売業チェーンの場合、北と南の店舗では実売時期が異なるため、アパレルメーカーの一律納期によって、機会ロスと過剰在庫を生じるリスクを常に抱える。
【現状】
シーズン商品の売変(値下)は、アパレルメーカーからの指示(時期、該当型番、新上代のリスト)にしたがって実施する。
【問題点】
アパレルメーカーからの売変指示により、シーズン商品を一斉に大幅値下(クリアランス)する。このシーズン商品のクリアランスは、お客様の購買心理を強烈に刺激し、短期間に集中的に顧客を動員する効果をもたらす。反面、売変時点でのプロパー消化率が低ければ、粗利率の低下とシーズン商品の持越し在庫化につながる。さらに、シーズン商品のクリアランスは、夏・冬それぞれのトップシーズン時点でスタートする早期展開が定着している。そこで、売変時点でのプロパー消化率の向上、トップシーズン時期にクリアランスしなくても売れる旬の商品の確保、粗利率の確保に執着した木目の細かい売変の工夫が必要である。
【現状】
委託仕入で返品が可能である場合、返品はアパレルメーカーの了解(時期、該当型番のリスト)のもとに実施する。
【問題点】
シーズン商品のクリアランス終了時に売変した商品を返品できれば、返品によって店舗は粗利益率を確保でき、しかもシーズン商品の持越し在庫化を回避することができる。一方、この時点でリスクをとらないため、発注段階で実売を予測した発注スキルのアップや型番ごとの優劣を判断する資料の精度アップが進まない。また、シーズンクリアランス用の商品確保が優先し、期中在庫が過剰気味となるマイナス面も併せ持つ。
さらに、従来の品揃え型専門店の「現状」をショッピングの『楽しさや心地よさ』などお客様視点からチェックし、「問題点」を整理してみる。
【現状】
一見何でも揃っているように見えるが、いざ目的を持って探すとなると欲しいものがなかなか見つからない。この店でなければという商品が少ない。
【問題点】
自店のターゲット(主な顧客層)を絞り込んでなく、ストアコンセプト(店の主張やこだわり)を明確にしていないため、品揃えが他店と同質化している。その結果、お客様に強い印象や共感を与えることに成功していない。
【現状】
従来の品揃え型専門店では、店内にところ狭しと並べられたハンガーや棚に服だけが陳列され、見ているだけで「見疲れ」してしまう状況がしばしば見受けられる。商品はアイテム別に陳列されていて、機能的であるが楽しさは感じられない。バッグや靴、アクセサリーなどの雑貨は少なく一箇所にまとめてコーナー化されている。
【問題点】
来店されるお客様に向けて、今週の店の「テーマ」(例えば、ライフスタイル提案、季節感や旬や歳時記の打ち出し、購買モチベーションの喚起、着こなし提案など)や「重点商品」をビジュアルマーチャンダイジング(VMD)手法を活用して提案していない。また、テーマに沿って服をコーディネートしたり、服と雑貨(バッグや靴、帽子、アクセサリーなど)を一緒にコーディネートする演出を実施していない。
3.婦人ファッション小売業の改善・改革の方向
従来の品揃え型専門店が現状の問題点を改善・改革し、今後めざす方向は、「SPA(製造小売業)型専門店」への方向と、「セレクトショップ(新たな品揃え型専門店)」への方向とが有望である(図表-1)。
(1)SPA(製造小売業)型専門店へ
SPA(製造小売業)型専門店へのアプローチには、1.前述した東京スタイルやワールドなど大手アパレルメーカーが川下側に進み、直営店を展開して自ら販売する形態と、2.ユニクロ(ファーストリテイリング)や無印良品(良品計画)のように小売業が川中側に進み、PB(プライベートブランド)を開発することによってアパレルメーカーの機能を併せ持つ形態とがある。
ここで、2.の形態に絞って、従来の品揃え型専門店が、SPA(製造小売業)型専門店をめざす場合の効果と克服要因をそれぞれ検討してみる。
従来の品揃え型専門店が、SPA(製造小売業)型専門店をめざす場合の効果
- アパレルメーカーの機能を持つことにより、今まで制約があった発注、納品、売変、返品段階の意思決定を自らの判断で実施できる。アパレル機能を持つことによる新たなリスクは大きいが、売上高とプロパー消化率の両指標で好業績を残した場合、粗利率に貢献するリターンも大きい。
- 自店のターゲットとストアコンセプトを明確にしたPBを開発することにより、自店の独自性(オリジナリティ)を発揮し、競合他店と品揃え面や価格面で差別化できる。
従来の品揃え型専門店が、SPA(製造小売業)型専門店をめざす場合の克服要因
- 自店のPB開発を可能にする川上機能(商社や縫製メーカー)との連携がとれるか。
- PB開発や商品部機能を統括する人材の確保(ブランドマネージャー、マーチャンダイザー、スーパーバイザーなど)が必要。
- 発注、納品、販売、売変、在庫などの情報を単品管理で一元化できる情報管理システムの整備が必要。
- お客様の要望や販売スタッフの声がPB開発や商品部にダイレクトに届き活用される仕組みや場づくりが必要。
- チェーン展開の中で地域特性に対応するために必要な品揃え枠の確保、店長・店舗スタッフのやる気を引き出すために柔軟な品揃え枠の確保が必要。
(2)セレクトショップ(新たな品揃え型専門店)へ
セレクトショップは、「店のオーナーのこだわりや感性に基づいて戦略的に構築された新たな品揃え型店舗」である。その特徴をまとめると以下のとおりである。
- ストアコンセプトは、オーナー(企業)のこだわりを重視して明確にしている。ストアコンセプトを明確にすることにより、ターゲットをストアコンセプトに共感する顧客層に絞っている。
- オーナーの感性や趣味でセレクトした商品を仕入れ、自主編集している。仕入先は国内やNB(ナショナルブランド)だけでなく、海外ブランドの輸入やPB開発も視野に入れている。自ら品揃えや売場構成を編集するので、高い編集能力が必要とされる。
従来の品揃え型専門店が、ストアコンセプトとターゲットの絞込みを実行した上で、セレクトショップをめざす場合に必要な改善点を検討してみる。 - お客様の来店頻度に合わせた営業展開計画(図表-2)を作成し、テーマ、顧客、商品、VMDやPOP、イベントやDMなどをすべて連動して計画する。
図表-2 営業展開計画(見本)

- 実売を予測した発注の精度アップを図るため、前年の型番ごとの売れ筋データやお客様の要望や販売スタッフの声を収集した資料を発注前に整備しておく。
- 自ら品揃えや売場構成を編集する上で、テーマ別商品展開マップ(テーマ別に展開する商品の絵型や写真を使って、スタイリング例やコーディネート例を表現したマップ)を作成することが必要である。営業展開計画とテーマ別商品展開マップが、品揃えや売場を構成するためのスタッフ全員のマニュアルとなる。
- ファッションテーマやスタイリング、コーディネートを効果的に表現するために、雑貨アイテム(バッグ、靴、帽子、アクセサリーなど)を重視して品揃えする。また、雑貨アイテムは、一箇所にまとめてコーナー化しないで、できるだけ関連する商品のそばに分散させて展開する。
最後に、SPA(製造小売業)型専門店とセレクトショップ(新たな品揃え型専門店)は、従来の品揃え型専門店が今後めざす2つの方向であるが、お互いに独立した業態ではない。どちらからでも相互に乗り入れが可能な業態である。
≪参考資料≫
| 統計項目 | 平成16年 | 平成14年 | 16年/14年比 |
|---|---|---|---|
| 商業統計(婦人・子供服小売業) | 5,227,490 | 4,946,103 | 105.7% |
| 日本百貨店協会(婦人服・用品) | 1,973,461 | 2,131,191 | 92.6% |
| 日本チェーンストア協会(婦人衣料) | 595,551 | 662,177 | 89.9% |
| 婦人ファッション小売業合計 | 7,796,502 | 7,739,471 | 100.7% |
- 第5回 日本そば店の動向
- 第6回 婦人ファッション小売業の動向
- 第7回 ソフトウェア業の現状と今後の取組み
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