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業種・業態 現状の課題と今後の取組
第5回 日本そば店の動向

中小企業診断士 清水 透


1. マーケットの現状

日本そば店の業態としては、次のようなものがある。

  1. 旧来からの「おそば屋さん」。そば類のほか丼物など豊富なメニューを揃え、出前をするタイプ。「○○庵」というのれんの名称を冠したところが多い。
  2. 駅周辺等に立地する「立ち食いそば」のタイプ
  3. 繁華街に立地する酒肴メニューを充実させた「そば居酒屋」のタイプ
  4. 自家製粉、手打ち、十割そばなど本物志向の「そば専門店」のタイプ

いずれも統計上は「そば・うどん店」に分類され、事業所数及び1世帯あたりの年間の消費金額は、表1のようになっている。参考までに、中華料理店とすし店のデータも載せた。年間消費額は家計調査年報の「日本そば・うどん」「すし」「中華そば」の数値である。

表1 「そば・うどん店」等の事業所数、消費額の変化
業種 事業所数 1世帯あたりの年間消費額
2004年 2001年 2004年 2001年
そば・うどん店 34,639店 35,086店 5,394円 5,411円
中華料理店 60,942店 62,989店 5,457円 5,388円
すし店 34,877店 39,539店 14,955円 16,289円

総務省「事業所・企業統計調査」「家計調査年報」

表1のように「そば・うどん店」は事業所数、年間消費額とも若干の減少傾向にある。この傾向は外食全体にもいえることで、「一般外食費」は2001年の154,762円から2004年は152,960円に下がっている。さらに20年間の動向を見たのが表2である。コンビニ弁当など中食市場についても見るため、「主食的調理食品」(弁当、すし、おにぎり、調理パン等)の数値を載せたので比べてほしい。

表2 20年間の消費額の変化
業種 一世帯あたりの年間消費額(円/年)
2004年 1994年 1984年
一般外食費 152,960円 162,855円 124,473円
日本そば・うどん 5,394円 4,946円 5,343円
主食的調理食品 39,738円 28,867円 12,847円

総務省「家計調査年報」

「一般外食費」は20年の間に2割ほど増加している。「日本そば・うどん」は、その間、若干の浮沈はあるもののほぼ横ばいである。伸びているのは「主食的調理食品」で20年間に3倍になっている。コンビニ弁当などの中食市場が急激に伸びていることがわかる。
一般的なのれん系の「そば・うどん店」の場合、6~8割を出前によって売り上げているといわれている。出前はある意味で中食であり、中食市場が拡大しているにもかかわらず横ばいということは「日本そば・うどん」は中食市場の拡大についていけない存在ということになる。

2. 業界の動向

業界の動向を知るために、中小企業庁が発表している「中小企業の財務指標」(平成15年1月~12月決算期)の数値をみていくことにする。

表3 小規模な「そば・うどん店」の売上高総利益率等
従業員数 売上高
5人以下 6~20人以下 3千万円以下 3千万円超
1億円以下
売上高総利益率 68.6% 69.0% 68.4% 68.9%
売上高当期純利益率 △1.2% △0.3% △1.8% △0.9%
売上高対人件費率 41.2% 39.9% 41.9% 41.1%
原材料回転期間 1.6日 1.4日 1.1日 1.9日

表3のように小規模な「そば・うどん店」は、粗利益率が7割弱、売上の約4割を人件費が占めるという数値になっている。
表3の元になった中小企業の財務指標は、国が信用データベースとして構築した「中小企業信用リスク情報データベース」(略称:CRD)の80万社を集計したものである。この80万社のうち「そば・うどん店」の業種に分類されているのは920社で、その内訳は表4のようになっている。

表4 財務指標の「そば・うどん店」のサンプル分布
従業員数 売上高(円)
5人
以下
6~
20人
21~
50人
51人
以上
3千万
以下
3千万超
~1億以下
1億超~
5億以下
5億超
614企業
(67%)
235企業
(26%)
56企業
(6%)
15企業
(2%)
283企業
(31%)
419企業
(46%)
192企業
(21%)
26企業
(3%)

表4から、業界の従業員規模別・売上高別の企業分布がある程度把握できる。従業員数5人以下のところが多く、売上規模では3千万~1億円を超えるところが多いようだ。

3.業界の問題点

(1)業態別の問題点

1) 立ち食いそば店

駅構内・周辺、オフィス街に立地する立ち食いそば店も、激しい競争の中で差別化が進んでいる。店内でてんぷらを揚げるのは当たり前になり、最近は店内で麺を茹でるタイプの「茹でたて」をアピールする店がはやっている。男性サラリーマンの昼食需要を満たしてきた業態だが、今後は、女性客もターゲットに展開する必要があろう。

2) そば居酒屋

そば居酒屋のタイプも増えてきている。のれん系のそば店が居酒屋メニューを増やすケースと居酒屋がそばをメニューに取り入れて進出するケースがある。のれん系のそば店で夜も賑やかな場所の店は、すでに酒のつまみを徐々に増やし、そば焼酎をそば湯で割るなど、そば店ならではの独特の店づくりをして居酒屋的な展開しているところがある。のれん系のそば店が、そば居酒屋になる場合は自然な流れで夜の酒類の売上が増えていったケースが多い。
自然な流れで徐々に変わっていくのではなく、店舗を改装して、そば居酒屋に業態転換する場合もある。意図的な業態転換は立地条件の変化などよく調査する必要がある。

3) そば専門店

老舗のそば店でクオリティの高いそばを売り物にする店もあれば、趣味が高じて脱サラし手打ちそばの専門店を開店したケース、他業種を営んでいた人がそば道場などに通って修行を積んでこだわりのあるそば店を開店するケースなどがこのタイプに属する。そばを石臼で挽いて手打ちにして二八そばや十割そばを提供したり、国産そば粉を使い、そばの殻や皮を丸ごと挽き込んだ全粒粉を使ったりして、差別化をはかりファンを獲得している。このタイプの店舗は、価格帯が高く
なるので固定客の獲得がキーポイントになる。

4) のれん系のそば店

一般的な「○○庵」という共通ののれんのそば店は、総本店といわれる店を中心に、そこからのれん分けした人たちで組織されている。こうしたのれんの組織は、共通の店名を掲げているが独立した店舗である。店主達は事業協同組合を設立して、そば粉、鰹節、みりん、醤油などを共同で仕入れていることが多い。しかし、使うそば粉、味付け、メニューなどはそれぞれの店主が独自のカラーを出していて、のれんとしての統一的な規制はあまりない。立ち食いタイプに比べての強みは、自店で製麺する点にある。

(2)のれん系のそば店の問題点

上の4つの業態の中からのれん系のそば店について少し詳しく見ていくことにする。
都心のターミナル駅から2キロほど入ったさびれた商店街に立地する席数30席の平均的なそば・うどん店の経営についてみていこう。
このそば店は、11時に開店して15時まで営業し、17時まで店を閉めて、17時から20時頃まで再び店を開ける。この程度の営業時間だと、店主を含め家族従業員3人、パート2人で店を運営できる。パートは11時から15時までの昼だけの勤務である。
朝7時には店主は厨房に入り、麺を打ち始める。そばは「挽きたて、打ちたて、茹でたて」の「三たて」がうまいとされている。この店は、そば粉と小麦粉の割合が6対4のミックス粉を仕入れ、開店前に製麺機で打って、昼の客の分までは賄えるように準備をする。そばだけでなく、うどん、ラーメンも自家製麺する。「三たて」の中の「挽きたて」以外の「打ちたて」と「茹でたて」を実現した店である。
客単価は800円で店売りが1日30席×1.2回転=36人。36人×800円=28,800円の売上になる。出前と店売りの比率が7対3だと出前は67,200円、1日の売上は合計96,000円になる。年間280日営業すると、年売上高は2,688万円である。
売上高対人件費率は平均が約40%なので、人件費は10,752,000円、パートに224万円(@1000円×4時間×280日×2人)かかると残りが8,512,000円、これが店主と家族従業員の取り分になる。
粗利益率が68%だと、2,688万円×68%=18,278,400円、これが販売費・一般管理費と利益の合計になる。粗利益から人件費の10,752,000を差し引くと、7,526,400円になり、これが家賃、水道光熱費等の経費と利益になる。こうした計算を元に作成したのが次の損益計算書である。

損益計算書
費用の部 収益の部
売上原価 8,601,600 売上高 26,880,000
販売費・一般管理費 18,278,400    
人件費 10,752,000    
賃借料 2,400,000    
減価償却費 500,000    
水道光熱費 1,800,000    
その他経費 2,326,400    
当期利益 500,000    
合計 26,880,000 合計 26,880,000

店舗の所有者が店主で賃借料の240万円が店主に入とすれば、以上のような経営状態で問題はないと思われる。
しかし、この店が最も多く売り上げたのは1988年(昭和63年)の4,500万円である。とすると、現在の売上高は最盛期の6割に過ぎず、経営に問題がないはずはない。
売上減少の原因は、コンビニ弁当とオフィスの移転による出前の減少である。つまり、近隣の人口構造と競合環境の変化についていけていないのである。20年前はオフィスと戸建の住宅がほとんどであったが、最近はマンションが建ちそこに居住する者は単身者がほとんどである。単身者は昼間不在であるからターゲット顧客にはならない。オフィスの減少も顕著である。オフィスへの出前が昭和63年頃の売上を支えていたが、オフィスは都心へ移っていった。
こうした変化を肌で感じていても、日々の商売に追われ対策を打っていないのがのれん系のそば・うどん店である。

4. 改善策

都心のターミナル駅周辺で通行人に「そば店」に対する意識調査を試みたところ、「値段が多少高くてもおいしいそばを作って欲しい」「本物志向を望む」「健康志向なメニューを置いて欲しい」「親子連れ、女性1人でも入りやすい雰囲気が欲しい」などの声があった。これをヒントに改善策を考えてみよう。

(1)専門化

まず、そば粉の割合の多い本格的なそばをメニューに加え、こだわり消費の固定客の獲得をはかる。今、消費は「こだわり」と「わりきり」の二極化傾向にあるといわれている。立ち食いそばの350円の「かき揚げそば」で満足できる人はそれでよい。しかし、そば通はそれでは物足りないから、そのニーズに応える必要があるのではないだろうか。問題は、そば粉は高いことである。最高のクラスとされる北海道産のそば粉は20kgで2万円前後である。そば粉対小麦粉の割合が6対4のミックス粉は20kgで9,000円程度である。そば粉の含有量を増やし、本物志向を打ち出すと値上げは避けられない。従来のそばとこだわりを持ったそばの2種類を作り、従来の価格を据え置くなど工夫が必要である。

(2)店舗作り

女性の社会進出に伴い女性が昼の時間に1人で入れる店作りをしなければ、飲食店の売上は伸びない。健康志向のそば店ではなおさら女性客が一人で入れる店作りが望まれる。また、そば店の中には、昔ながらの狭いテーブルを使っている店もある。その狭いテーブルに相席させられるのは苦痛だ。もし、その狭い空間でタバコでもすわれたら、タバコを吸わない人間は逃げ出したくなる。
1人で座れるカウンター席を設けるなど削れるところは削り、団体客には少しでも広い空間を取れるように工夫すべきである。

5. まとめ

そば・うどん店の数も消費額も20年前とほとんど変わらない。それは「日本そば」が我が国の食文化の代表であることを示すものであろう。しかし、統計数値上の変化はなくても、個別の店舗をみると転廃業がかなりある。のれん系のそば店の組合の役員は、最近での開店はほとんどなく、後継者がいなくて廃業する店ばかりだと嘆いていた。一方で、立ち食いそば店、そば専門店、そば居酒屋はよくみかけるようになった。このプラスマイナスの結果が統計に表れて、総合的には変化なしということになっているが、その中は激しく動いている。
長年、同じ場所で、同じように商売してきたのれん系のそば店は、環境の変化への対応を迫られている。変化への対応を進めて、魅力ある店づくりをし、顧客を獲得し後継者を育てて日本の食文化を守って欲しいと思う。

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