業種・業態 現状の課題と今後の取組
第3回 水産食料品製造業の現状と今後
中小企業診断士 高坂一郎
1. 水産食料品製造業の現状と課題
(1)市場動向
1)水産食料品製造業の状況
国内の食料品市場は75兆円規模といわれている。そのうち生鮮食料品が16兆円、加工食料品が29兆円(うち飲料関係が6兆円)、外食市場が30兆円といわれている。工業統計表においては、2004年の食料品製造業の製品出荷額は、約22.7兆円となっている。その中で水産食料品製造業は3.3兆円規模であり、食料品製造業の約14%を占めている。2000年以降の推移を工業統計から見ると、食料品製造業は約5%のダウン、水産食料品製造業は約16%強のダウンとなっており、市場の縮小傾向がうかがえる。
【図表1】製品出荷額推移(出典:工業統計調査)

水産食料品製造業の内訳を見ると図表2のようになる。その他の水産食料品製造業が最も多く占めておるが、次に多いものが水産練製品製造業(かまぼこ、ちくわ等)の20%となっている。さらに冷凍水産食品が13%、冷凍水産物製造が10%、海藻加工10%、塩干、塩蔵8%程度と続いている。水産食料品製造業の構成はここ5年間ではそれほど大きな変動はない。(図表3参照)


2)市場動向
国内の食料品市場は、人口の高齢化及び減少化傾向により、長期トレンドでは縮小傾向にあるといわれている。図表4は将来人口推計、図表5は65歳以上の高齢者の人口割合推計(いずれも国立社会保障人口問題研究所)であるが、2050年には低位推計で9000万人まで人口が低下、一方で高齢者は30%以上に増加する。少子化・高齢化・人口減の3つが同時進行する状況の中で、当面、食料品市場は、右肩上がりの成長は困難な市場と予測されている。


3)参入企業の状況
では、水産食料品食料品製造業として参入している企業にはどのようなものがあるか。図表6を参照願いたい。
| 製品内容 | 市場規模(国内)t数 | 主な参入企業と動向 | |
|---|---|---|---|
| 練り製品 | ちくわ、かまぼこ、ねり製品類 | 586,965 | 紀文、一正蒲鉾、スギヨ、カネテツデリカ、堀川、ヤマサ蒲鉾、伏見蒲鉾、別寅蒲鉾等が多いが、これらを合計しても市場シェアの50%に満たない。かに風味、ほたて風味蒲鉾は世界的なヒット商品となった。 圧倒的に中小企業が多く参入している。 |
| 魚肉ハム・ソーセージ | 68,282 | マルハ、日本水産、丸大食品、東洋水産、丸善の大手5社でシェアを握る。BSE問題で代替需要があったので若干市場は伸びた。 |
|
| 冷凍食品 | 魚介類 | 153,080 | 冷凍えび、いか等の魚介類 |
| フライ等加工食品 | 132,563 | 加ト吉、日本水産、ニチロ、マルハ、ニチレイの大手5社で約90%のシェア 一般家庭用の他に業務用も伸びてきている。 |
|
| 乾製品 | 333,525 | 素干し、煮干し、塩干し等の製品 | |
| 塩蔵品 | 208,580 | さけ、ます、たらこ、かずのこ等 | |
| 燻製 | 11,805 | スモークサーモンなど、洋食化傾向の中で順調に成長している。 | |
| その他加工品 | 節製品 | 11,476 | マルトモ、ヤマキ、にんべん、マルアイ等が大きいが中小企業も多く参入している。削り節自体の伸び悩みにより、市場は低迷している。 |
| 塩辛 | 31,863 | 小野万、竹田食品、マルヨ水産、紀文、布目等が有名ブランドであるが中小企業も多数参入している。市場は横ばい傾向であり、低迷している。 | |
| 水産物漬物 | 78,819 | 各種 水産物漬物類 | |
| 調味加工品 | 329,376 | ||
| こんぶ佃煮 | フジッコ、小倉屋柳本、カネハツ食品等の昆布佃煮商品が目立つが、多くは中小メーカーによる。原材料の昆布が高騰するなど苦戦をしているが、安心・安全・健康を唄う商品コンセプトで固定層の支持を獲得する。 | ||
| のり佃煮 | トップブランド商品のある桃屋の他、ブンセン、磯じまん等が有名である。米飯需要の低迷化の中で市場は頭打ちであるが、様々な味のバリエーションを加える事で需要喚起を努めている。 | ||
| からし明太子 | ふくや、やまや、かねふく等の著名ブランド品は底堅く推移している。おにぎりの中身としてもポピュラーとなっている。「お取り寄せ商品」として、ネット通販等も有望となる。 | ||
| のり | 8,430,000 (単位:千枚) |
白子、ニコニコのり、大森屋、浦島海苔、山本山、山本海苔、山形屋等が有名な海苔店であるが多くは中小企業による。最近では韓国海苔が解禁され伸びている。 | |
競争環境から見て、当業界は、大きく3つのタイプに分けることができる。
- 大手食料品メーカーが参入し、シェアを握っている業態(冷凍食料品、魚肉ソーセージ等)この領域は大手メーカーがナショナルブランド中心に供給させており、中小企業の参入は比較的少ない。
有名メーカーが市場のシェアの約半分を握り、他は中小メーカーが参入している業態。(練製品、節製品、塩辛、昆布佃煮、のり佃煮、からし明太子、海苔等)
この領域は、大手・有名ブランドの他に地場の中小企業も活発に参入している。地域特性を生かした商品開発や特徴のある製造加工技術により、過去においても様々な技術革新の実績がある。
(例:カニ風味かまぼこ等)- 生鮮素材に準じた素材加工業態(乾製品、塩蔵品、燻製、水産漬物、冷凍魚介類)
この領域は生鮮品に準じて、乾し、塩漬け、漬物、冷凍等の加工技術を加えている領域である。食生活の変化によって、総じて需要は減少傾向にあるが、新たなメニュー(用途)開発によって市場の維持も可能である。中小零細の地場企業が多く参入している。
(2)業界の課題
1)水産食料品資源の減少と調達コストの拡大
200海里時代となった今、水産食料品資源は、かつてのような大型船団による遠洋漁業を主体とする自力調達から、海外からの輸入調達という方式に大きく変化している。よって、国際漁業規制や外国為替の変動もリスクとして勘案してきている。
また、水産食料品資源自体も最近では「まいわし」をはじめ、資源の減少が顕著に見られるようになっている。気象変動や漁獲高の乱高下に原材料コストは大きく変動している。
さらに昨今の原油高は、コストを押し上げることとなり、調達コストは厳しいものになっている。業界としては、より高い品質の原材料を安定的かつ低コストで調達できるかどうかが課題といえる。
2)生鮮素材を含めた海外生産品へのシフト
冷凍食料品等を中心に海外の安価な製品が輸入され、国内製造拠点の海外シフトも活発である。量販店や外食チェーン等の流通による低価格化要請もあり、中国や東南アジアに生産拠点を移している。業界としては、こうした低価格化対応や、生産拠点の海外シフトによる国内製造業の空洞化のリスクにいかに対抗することができるかも課題である。
3)消費者の嗜好の変化と魚離れ
最近の消費者の食生活における嗜好の変化に既存の水産食料品が充分対応していない面もある。家庭内での調理が簡便化し、消費の主力であった生鮮魚介類やこれに準じた乾製品等の需要が減少している。また、調味用の鰹節や米飯の補助食料品であった「のりの佃煮、昆布の佃煮、塩辛等」も頭打ちとなっている。業界全体として消費者の「魚離れ」をいかに食い止め、新しい食習慣の中でメリットのある商品開発や販売促進がいかに可能とするかが課題となっている。
(3)業界のSWOT分析と今後の業界戦略
以上の環境を業界の強み(S)、弱み(W)、市場の機会(O)、脅威(T)から整理すると図表7の通りとなる。

【拡大画像】
1)オフェンス(攻撃)的戦略
業界の強みにて、全国の地場産業を中心に高度な製造技術を持った中小企業が多数存在しており、多くは経営者の力強いリーダーシップにより技術革新も行われている。この強みを積極的に活用して「新商品開発の強化促進」を進め、多様化した市場の中で、新たな需要を喚起させることがオフェンス的な戦略である。日本人は水産食料品に関して、底堅いニーズを持っている。各企業のもつ強みを生かした商品開発を「繰り返して」行い、需要の喚起を図っていく。消費者のライフスタイルに応じた「新メニュー開発」や健康・栄養志向での「メリット追及」等が挙げられる。また、「安全・安心な業界、商品イメージ追及」という面も有効である。ICタグや食品トレーサビリティの新技術を業界挙げて積極的に導入し、「安全・安心の保証」をいかに構築できるかがポイントといえる。また、資源の制約性に対応する為、例えば未利用海洋資源である「おきあみ、深海魚類」等を有効活用した安心・安全な商品を共同開発することも重要な戦略といえる。また、川上(漁業)・川下(流通)や異業種(機械、医薬医療、美容・栄養等)を巻き込んでの業界連携により、新たな技術革新、市場創造の可能性もあり得る。
2)ディフェンス(防御)的戦略
冷凍設備、洗浄、脱水等多大な設備投資を要する水産食料品製造業では新規投資に負荷がかかる。設備の更新も進まず、本来強みになる技術革新に乗り遅れるリスクもある。また、昔気質の社風の企業も多く、企業間の連携・協働はスムーズに進まない面もある。しかし、資源の確保や製品安全体制の構築、マーケット需要の喚起、共同設備投資、共同研究等を業界共同で実施する必要性は高いといえる。かつての技術革新の事例においても新規技術をいち早く公開し、業界として市場を形成していった例もある。いかに業界が団結してこの難局に対抗できるかが大きなポイントといえる。
2.今後の対応策
(1)事例1-市場喪失の危機を日本の伝統文化と新技術で克服-
具体的な業界・企業の対応例から今後の対策策のヒントを検討したい。最初の例は「かつお」という素材活用の例である。「かつお」は現在では「かつお」のたたきに代表されるように、食卓ではポピュラーな存在となっている。しかし、「かつお」のたたきが市場に拡がったのは、1970年の石原水産(静岡県)による「鰹たたき手焼き」以降といわれる。
「かつお」は主として海外向けの缶詰素材や国内市場で「鰹節」として利用されていた。しかし1972年のニクソンショック以降、急速な円高により海外向け供給が激減し、市場の喪失の危機が見られた。
この危機の中で誕生した商品が石原水産による「かつおのたたき」である。石原水産の経営理念に「獲って、造って、販売することにより、漁業者、加工業者、流通業界のそれぞれに貢献」とある。元々漁業経営であり海で「獲る」ことはプロであるが、陸でも「かつお」を手焼きで「たたき」にして「販売」した。「かつおのたたき」は、高知県の郷土料理である。「かつお」は空気に触れると急速に黒ずむという特性があるが、郷土料理の「かつおのたたき」が「表面焼き」によって直接空気に触れることを封じ込め、新鮮さを維持することに気がついた。当時遠洋漁業で収穫した魚を生のまま「急速冷凍する技術」が開発されたことも寄与した。新鮮な「生のかつお」を陸揚げし、「焼成(表面焼き)」「冷却」「乾燥」を一貫して機械で量産する技術を活用して、「かつおのたたき」の量産化に成功したのである。
以上を図式化したものが図表8である。用途を失った水産資源を日本の伝統文化と近代技術によって有効に活用した好例である。石原水産はその後も「キャンディー風まぐろ珍味」、「チーズとかつおの組み合わせ-チーズかつお」など、次々と独創的な商品開発を手がけている。今後もこうしたスキームを参考に、既存の水産食料品資源を有効活用した商品の開発が有効といえる。

(着眼点)
- 地場の水産食品の中で大量に獲られて、栄養もあり、ユニークなものはないか?
- ユニークな料理法を大量生産する技術を開発できないか?
- 地場の料理技術を見直すことで、今まで用途の限られていた海洋資源を再利用できないか?
(2)事例2-未活用の水産食料資源の活用
次に、未活用の水産食料資源を新技術でまったくイメージの異なる商品に改良した例を取り上げる。一つは「まぐろや鯨」あるいは最近になって「冷凍すり身」を使った「魚肉ソーセージ」であり、もう一つは、同じように「冷凍すり身」を使った「かに風味かまぼこ」である。
「魚肉ソーセージ」は、1935年ごろ、マグロ肉を加工して「魚肉ハム」として開発されたといわれる。戦後では、食糧不足の中で給食の定番メニューとして採用され、大手水産加工メーカーの下で急速に市場に浸透した。200海里時代以降は、マグロ・鯨から「冷凍すり身」に材料を替え登場し、健康志向の中でDHA等が支持され、年間6万t程度を維持している。
「かに風味かまぼこ」は世界全体で年間30万t以上生産されているグローバル商品である。日本では5万t程度である。1973年にスギヨ(石川県)が「すり身」を原材料にカニ肉に擬した蒲鉾を製造したことに始まる。もともとクラゲの擬似食料品に使って失敗した技術を活用してカニのほぐし肉状の繊維を作った。その後、様々な地場水産企業が参入し独自技術を用いて差別化した製品を上市した。「かに風味かまぼこ」は食生活の西欧化に中でも適応し、サラダやオードブルに利用された。また、世界的に消費されていたカニの代替製品として北米、欧州にも輸出された。さらに円高により製造拠点を海外に移転し、これを拠点に海外においてもそれぞれの風土に適合したカニ風かまぼこ製品が進化し普及した。
ここで着目すべき点は、その当時豊富にあった魚肉を、「魚肉化」「すり身技術」によって加工し、欧風化の中で登場した「ソーセージ」や「カニ肉」の代替品として市場を形成させた一連のプロセスである。「カニ肉」については需要が国内のみならず、様々なバリエーションに進化しながらグローバルな製品となって成長した。また「カニ風味かまぼこ」の特許技術を1社独占ではなく、他社にライセンス提供し、市場形成に一役買ったことも成功要因とされている。

(着眼点)
- 希少で需要の高い水産食品の代替となる食品加工技術はないか?
- その際の原材料として未利用の水産資源を活用できないか?
- 1社で技術を独占することなく、業界を上げてライセンスの便宜を図ることで市場の創造が可能にならないか?
- 国内のみならず、海外需要にも目を向けて、グローバルな商品開発にならないか?
(3)食生活の変化の中での水産食料品資源への期待
食生活の変化の中で水産食料品がどう変化していくか。従来の「ごはん」の副食的な「海苔の佃煮、昆布の佃煮、のり、塩辛等」の需要は、食事の外食化・中食化する中で、伸び悩んでいる。一方、白身魚のフィレ肉、スモークサーモン、ツナ等の洋風素材や、コンビニの「おにぎり」の中味となる「明太子等」は順調に伸びている。昨今の健康志向から「もずく」「茎分け」「めかぶ」等の商品がヒットしている。同じ水産食料品についても食生活のトレンドや消費者から見た価値観(メリット)にどう関係するかによって伸びが左右されている。水産食料品製造業にとっては、川下における「メニュー提案」がますます重要になってきている。また「外食化」「個食化(家庭単位ではなく個人単位でメニューを選択する)」の中で適合する商品企画として成功させるポイントといえる。
例えば、「水産練製品」は大きな市場を有しているが長期的には縮小している。一方最近では水産練製品を詰め合わせた「パックおでん」が急速に成長している。簡単に暖めて食べられるとう簡便さが消費者に受けているという。食材としてのみならず、生活のシーンに応じた形で食材を組み合わせて新しい商品として販売することで新たな需要喚起も可能である。
(着眼点)
- 個食化、洋風化、中食化、外食化する食のトレンドに適合しやすい製品は何か?
- 健康志向で訴求できる素材選びはできないか?
- 食のトレーサビリティを可能にするような安心・安全な調達素材はないか?
- 子供、高齢者、独身者にとっても手軽に調理できる簡便な製品化はできないか?
(4)グローバルな市場としての水産食料品製造業
国内の人口が長期的には縮小するといわれても、世界に目を向けると現在60億強の人口は2050年には約90億人と1.5倍程度に増加すると見込まれている。(国際連合人口部推計)

世界的な視点を持てば市場は拡大しているともいえる。2(2)の「カニ風かまぼこ」の事例でも見るように、日本の高い加工技術が世界的な市場を形成させた例もある。また、昨今の欧米における日本食ブームでも「すし」をはじめとする水産食料品の普及も進んでいる。
水産食料品業界は原材料を世界中から調達している。しかし、逆にこのネットワークを活用し、世界中に日本の優れた食文化や製造技術を武器に情報発信することで、新たなグローバル市場を開拓することも夢ではない。
(着眼点)
- 世界的に増加する人口増に対応して、新たな栄養源を水産資源から提供できないか?
- 各国の食文化に適合できるような食材の提供はできないか?
- 世界の人たちに役立つような日本の食文化、製造技術はないか?
参考文献)水産食料品流通統計年報(2005年)
工業統計表(2004年)
日本の将来人口推計(2001年)、国際連合人口部推計(2004年)
著者プロフィール
- 高坂一郎
- 中小企業診断士
専門分野食品製造業、品質管理、労務管理、生産管理、マーケティング等千葉大学法経学部法学科卒業大手メーカーの総務部門、生産管理部門、営業企画部門等を経て、平成16年3月に中小企業診断士に登録する。企業経営戦略、人事制度、労務管理、地域産業活性化をフィールド・ワークとして研究活動を行う。
- 第2回 印刷業界の動向と成長への挑戦
- 第3回 水産食料品製造業の現状と今後
- 第4回 土木建築サービス業の動向
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