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業種・業態 現状の課題と今後の取組
第2回 印刷業界の動向と成長への挑戦

中小企業診断士 阿部 隆


I. 印刷業界のあらまし

1) 印刷とは何か

印刷物は、新聞、書籍を始め出版物、新聞・チラシ・DM、案内状・通知などの郵便物、包装紙等数え上げればいくらでも身の回りに存在している。対象は「紙」に限らず、プラスチック、建装材、布地、金属、精密電子部品など、多様な素材に及ぶ。生活上で馴染み深い製品を扱う業界といえる。
印刷とは「版を媒介にして、文字や図などを紙等にインキで定着させ、複製物を高速・大量に製造する行為」と定義できる。業界の固有ノウハウは、文字処理(組版・レイアウト)と画像(写真)処理そして色あわせの技術である。さまざまなサービスもそれが根底にあって可能となる。

2) 印刷業の分類

「日本標準産業分類」では、製造業の「印刷・同関連産業」に分類され、「印刷業」「製版業」「制本業、印刷物加工業」「印刷関連サービス業」に区分される。
通産省生活産業局紙業印刷業課の監督下であったが、経済産業省への組織変更に伴い、商務情報製作局文化情報関連産業課(通称メディアコンテンツ課)の所轄となり、ゲームソフト、映画・映像産業、音楽業等コンテンツ及び加工業カテゴリーに分類された。製造業だが、メディア産業としての発展が期待される、との位置付けになる。
通産省「2000年の印刷産業ビジョン」による印刷産業6分野類型は以下のとおり。

大分類 中分類 定義
出版印刷 定期出版印刷 出版社等から定期的に発行される出版物
不定期出版印刷 出版社等から不定期に発行される出版物
その他出版印刷 上記以外の出版物
商業印刷 宣伝用印刷 企業等の広告宣伝、販売促進などに使用される印刷物
業務用印刷 官庁、企業、学校等の内部で使用される報告書、議事録、名簿類など主として業務に使用される印刷物
証券印刷 一般証券印刷 金銭または信用にかかわる証書類
カード類印刷 銀行口座の入出金、各種代金決済などで使用される磁気カード及びその他のカード
事務用印刷 ビジネスフォーム印刷 伝票類及び電算機で使用される連続帳票
事務用品印刷 事務処理上使用されるノート、封筒などの事務商品
包装その他特殊印刷 包装資材印刷 食品、薬品などのパッケージ印刷物
その他特殊印刷 建装材や布地など紙以外の物質に対する印刷及び印刷技術を応用した精密電子部品(包装資材除く)
ソフト/サービス 印刷付帯サービス 印刷物の受注に付帯するサービス
ニューメディア関連サービス 印刷工程の電子化技術を活用した情報の加工・蓄積・提供に関するサービス

以上の製品用途による区分とは別に、印刷方法(版式)の違いにより、凸版(活版)、平版(オフセット)、凹版(グラビア)、孔版(シルクスクリーン等特殊印刷)に区分される。出荷額で構成ウェートが高いオフセット印刷〈約75%〉は、使用用紙として枚葉紙を用いるオフセット枚葉機と、巻取紙を用いるオフセット輪転機(以下オフ輪と称す)にわかれる。大部数がオフ輪、比較的小部数が枚葉機と区分けされていたが、近年オフ輪機の小ロット対応が進み、以前ほど明確な区別は無い。

II.印刷業の現状

1) 厳しい業界動向

1. 縮小する市場規模

印刷業は、景気動向の影響を受けにくい、堅実な業種、と考えられていた。バブル期には、「確実に儲かる仕事」とみなされ、新規参入が増加、業界規模は拡大し続けてきた。しかし、最近では業界存続が云々されるほど厳しい環境へ変化してしまった。(表-1)


【図の拡大表示】

印刷業の市場規模は製品出荷額ベースで6兆3159億円(印刷業に製版、製本、印刷物加工、印刷関連サービス業を加えた印刷産業計では7兆2127億円)となっており、平成12年対比で▲7652億円、10.8%の大幅な減少である。H16年の事業所数26,368、従業者数は304,984人、こちらも減少傾向である。日本経済は景気低迷期を脱したが、印刷業の低迷は続く。

2. 小企業型分業構造と、大凸寡占構造

印刷関連事業所は、従業員規模で300人未満の中小事業所が全体の99.8%、20人未満の小規模事業所で90%近くに達する。大日本印刷と凸版印刷(以下大凸と略記)が実力・規模ともぬきんでており、大凸2社のガリバー型寡占(各々1兆円企業)、数社の準大手(大凸と一桁の差)、その以下の中堅クラス、圧倒的多数の小規模・零細企業という構図である。仕事の上でも、多くの会社が大凸に連なる下請け、孫受けとして、競争と相互依存・分業体制がからまりあった仕事の階層が業界全体に出来上がっている。印刷会社の一番の得意先は印刷会社、といわれるほど、いわゆる「仲間仕事」の割合が高い。
大凸による近年の営業展開の特徴は、一般印刷以外の放送分野、建装材分野・精密電子部品等エレクトロニクス分野・顧客のマーケット分野、企業CI支援・web活用したB2Cビジネスの内外の異業種企業と共同展開等中小企業では対応が難しい分野を豊富な経営資源を活用して切り開いていることだ。その意味で大凸と中小印刷企業は全面的な競合関係になっていくわけではないが、大凸の厳しい事業の見直しで、切捨てや下請け価格の大幅な引き下げが行われ、従来の「棲み分け構造」が崩壊しつつある。

1. 市場分業構造の変化と大都市圏の苦戦

印刷業はビジネス構造として納期が重要な要素であり、発注者との間で原稿の校正など密接な連絡が不可欠なため、消費地近接型産業として地域性が強い。紙媒体の情報発信地は東京都を始め大都市近辺に集中するため、印刷関連企業も大都市に集中した。
地方では、需要量の関係で分業体制の形成が困難なため、必然的に総合設備による一貫工程を備えた印刷会社が多い。「分業の東京」「一貫工程の地方」で市場を分け合う状況だった。一貫工程の保有により、印刷工程のデジタル化(DTP化→CTP化)の進行に伴い工程間をまたがるデータ処理が可能となり、受注に有利となった。道路網の整備充実、通信ネットワークの進展も地方企業に有利に作用し「受注は東京、生産は地方、納品は全国」というスタイルが出来上がった。近年、地方印刷企業による大都市営業所設置での受注攻勢が目立ち、大都市圏印刷会社の出荷額の落ち込み、苦戦が目立っている。

2. デジタル化の影響とビジネスチャンス

印刷企業は、この間の、印刷工程の前段階(入稿・企画・デザインから写植・版下を経て製版までの工程でプリプレスと呼ぶ)から刷版工程までのデジタル化で、アナログ時代に請求できた「版下代」「分解代」「集版代」といった売上を失った。印刷業の売上低下は、景気低迷及び技術革新による印刷価格低下と一般に考えられるが、デジタル化によるプリプレス加工賃の低下を無視できない。デジタル化によるプリプレス加工賃売上減少は平成9年~平成14年で2.9兆円にのぼり、同時期の印刷物価格低下による売上減1.4兆円を上回る、という試算がある(印刷技術協会による)。
一方で、印刷業界のデジタル化は、生産機中心のデジタル化から、全ての作業情報と取引情報を一元管理するフルデジタルワークフローに進みつつある。印刷会社にとっては、顧客の多様なデジタルコンテンツにかかわり、その運用提案を行うことによって顧客の事業収益向上に貢献できる可能性が出現する、ということだ。

III.印刷業界の将来

1) コンテンツ分野を取り込み成長を見込む

印刷産業の将来規模予測を、 (社)日本印刷産業連合会「日本の印刷産業<将来市場規模>」(平成18年3月)が行っている。(表-2)


【図の拡大表示】

印刷市場規模は、エレクトロ二クスやソフト・サービス、周辺サービスも積算対象とし、それらの伸びが印刷分野の減少を補い、若干の成長を見通した予測数値である。

2) 成長への挑戦

印刷会社各社は、目前の受注減への対応として、お題目のように「提案型営業」を唱え、力を入れたにもかかわらず印刷業における営業の生産性は下がり続けている。営業員教育や資質云々の前に、印刷会社にとしての戦略ドメインがはっきりせず、顧客からみた自社の特徴が明確になっていないことに大きな原因がある。
対応戦略は、大きく以下の2つになる。

  1. 顧客の企画・提案、プロデュースなどソフトを軸にして新たなサービスの提供(従来のビジネスモデルの変更)
  2. 優れた品質の印刷物をどこよりも安く早く納める製造業に徹すること(従来のビジネスモデルの徹底)

各印刷会社は、自社を取り巻く環境、経営資源、技術革新の動向等を見極め、自社の戦略を見直し、モデルの組み合わせを工夫しながら生き残り競争に加わっていくことになる。
「1.従来のビジネスモデルの変更」には、3つの選択方向があるだろう。

1) ワンストップサービスの提供をめざす

デジタル化で薄れた印刷の専門性を、前工程(プリプレス)と後工程(ポストプレス)に拡張することによって、サービスメニューを充実させる。例えば、前工程のメディアコンテンツ部門は、企画制作の専門性、クロスメディアの専門性とビジネス化。後工程では、アッセンブルやパッキングなどのフルフイルメント機能や、オンデマンド能力機能、エンドユーザーへのロジスティックまでを提供できる能力の保有である。
いわば一気通貫のワンストップサービスで、自社をサプライチェーンのコアとして、企業連携の構築をめざす。この戦略は印刷設備のフル装備が前提なため、経営資源に乏しい中小企業では採用は難しい面があるが、インラインフィニッシングシステム(今まで別工程になっていた印刷、加工、製本をひとつの工程で完了するシステム)をオフ輪に設置し、「折る・貼る・抜く」の一貫工程加工管理、納期短縮を行って受注を伸ばしている中小企業の事例がでている。

2) メディアコンテンツ部門の専門性の向上

フルライン的な対応が難しい中小企業にとって、プリプレスの発展・深耕が方向として考えられる。例えば、企画制作の部分を、丸ごと受注し、クライアント企業にとって納得できるノウハウを出版社と遜色ないレベルで提供することである。そのためには、商業印刷ならば、広告代理店や広告製作会社に匹敵する機能を持つ必要がある。この方向は、今までも強調され、チャレンジされてきたが、余り成功していない。中途半端なデザイン部門や編集部門の設置では、顧客は便利に使え喜ぶが、印刷会社としての収益に貢献してこなかった。その反省のうえで、本格的対処策を考える必要がある。

3) メディアロジステックを徹底する

ポストプレスへの拡張では、メディアロジスティックスが注目される。現在、印刷会社は、受注に基づき印刷製本を行っているが、クライアント側はその後、加工し、最終消費者にむけて配送、発送等を行っている。例えば、ダイレクトメールであれば、印刷にとどまらず、最終消費者に届けるための封緘・発送・局出しまでの作業がある。企業が求めている、オンデマンドな適地印刷、加工、包装・流通加工、在庫管理、顧客への情報流通などの印刷納品後の機能分担をトータルで請け負ってしまう。このスタイルは、DPS(データプリントサービス)の発展形態として、現在売上を伸ばしている。
以上の1~3は、印刷会社が課題解決のためのソリューション提供力を強化して、クライアントの事業パートナーを目指す、という方向である。
「2.従来のビジネスモデル徹底」も簡単な道ではない。設備、環境、デリバリー等を徹底して管理する必要がある。効率アップのためにはIT積極活用が避けられない。
ある地方諸都市の印刷会社は、営業社員をやめ、インターネットによる24時間受注システムを構築し、両面4色印刷を小ロットでも格安・迅速に納入することを売り物に、新規受注を獲得している。これは、「営業」という部門をなくし、経営資源の集中による印刷本体の効率化を目指したものだ。
「仲間仕事」のみ受注し、設備の効率を最大限上げコスト競争力を強化する、あるいは、インタ価格を中心に激烈になる等のチャレンジが行われている。

著者プロフィール

阿部 隆(あべ たかし)
中小企業診断士、社会保険労務士
アパレルメーカー、金融機関(生命保険会社)勤務を経てコンサルタントとして独立。
印刷関連企業の経営戦略作成・ISO認証取得支援等を多面的に行うため、コンサルタント8名で企業組合印刷経営総研(Gims)を組織、現在代表理事。平成14年より、全国印刷工業組合教育・労務特別委員。

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