小売業改革 強い本部の作り方
第5回 強い販促企画部
トーマツ コンサルティング株式会社
マネジャー 加納由紀子
E-mail: yukiko.kano@tohmatu.co.jp
小売業の事業拡大における本部の強化方法について連載をしている本シリーズの第5回は販促企画部にスポットを当てていきます。
小売業の特徴として店舗を構えている以上、売上を上げるためにはお客様を呼び込む仕掛けが必要です。
小売業では、集客のための手段として、主にチラシやDMなどを活用しています。チラシやDMはいずれも印刷物であり、個別店舗で対応するよりも、一括して本部で発注した方が1枚あたりの単価が安くなることから、本部に「販促企画」の部署を置く企業が多くあります。
今回は、「集客力」を高めるために販促企画部が本部機能として何をすべきかについてまとめていきます。
たかがチラシ、されどチラシ
小売業の集客手段として、最も活用されているのがチラシです。かなり以前から小売業の集客手段として使われており、なかには「もう既にチラシの集客は古いのではないか、チラシで人は来ないのではないか」という人もいますが、これに代わる強力な集客手段がない、というのが実態です。
ここでは、集客効果を高めるためのチラシ作成方法にフォーカスして、そのプロセスを確認していきましょう。

図1はマネジメントサイクル(Plan⇒Do⇒Check⇒Action)に沿って、チラシ作成のプロセスを整理したものです。
このプロセスに沿って、チラシ作成のポイントを確認していきましょう。
A.基本設定
チラシ作成の準備として、商圏設定のプロセスを確認していきましょう。
過去にチラシを配布した際のレスポンス率(来店客数/配布枚数)を算出しながら、効果の高い商圏は何処だったのかを分析することをここでは商圏分析としています。先に商圏分析結果と店舗の売上目標を確認しておきます。

次に、「商圏=最大チラシ配布枚数」を算出します。
図2のように、ある店舗の売上目標が月間1,500万円だったとします。
売上高を1人当り消費金額と商圏人口とシェアに分解します。このうち、1人当り消費金額は固定値です。家計調査のデータなどを参考に自社で取り扱っている商品の1ヶ月、1人当りの消費金額を特定します。
あとは、シェアと商圏人口のシミュレーションです。
クープマンのシェア理論に基づき、存在シェア6.8%を取ることを目標とした場合、認知シェア10.9%、市場影響シェア26.1%の場合などシェアを仮置きして、必要となる人口、世帯数を算出してみます。
シェアは店舗の販売力によって変化します。販売力のある店舗は当然シェアも高くなります。一般的に市場影響シェアの26.1%が確保出来れば、その地域の一番店であるといっています。
シェアシミュレーションによる商圏人口の算出とあわせて、販促コストのシミュレーションも行います。
例えば、図2の事例では、販促費の目標を売上高の5%と設定しています。すると、B3サイズのチラシの配布コストが仮に15円(各企業で実績から設定)だとすると、5万枚のチラシ配布が可能ということになります。シェアシミュレーションの数値と比べると、認知シェア10.9%と非常に近い数値となっています。分かりやすく言えば、「チラシをまいて、10人に1人お客様に商品を買ってもらう」チラシを計画するならば、約5万枚のチラシを配布すればいいということになります。
厳密には、このように各店舗の商圏設定をしていきます。ただし、毎回チラシを配布するたびにこのようなシミュレーションをすることは難しいので、年に1~2回程度の分析で十分だと思われます。チラシ配布毎には、店舗の売上目標だけを変えていけば算出手順は同じです。
配布枚数が決まれば、先に分析しておいた商圏のうちレスポンスの高いエリアから順番に配布エリアを特定していきます。
B.紙面作成
チラシの紙面作成において、「分かりやすい」「安さ感がある」といったイメージづくりも必要ですが、集客力に最も効果があるのは商品、特に集客用の目玉商品の設定です。競合店の価格を常にチェックしながら、商品部との十分な打ち合わせの元、チラシの掲載商品を特定していきます。
本シリーズの第1回で、「統一フォーマット」と「個店対応」という多店舗展開のパターンについて触れましたが、チラシにおいても、全店統一なのか、一部個店対応のため、商品や価格の差し替えがあることを前提としておくのかによっても、若干プロセスが異なります。個店対応を取り入れる場合は、チラシの初校ができた段階で、SVや店長からの意向を確認し、チラシに反映させなければなりません。
C.現場対応
現場対応は販促企画部の仕事ではないですが、セール内容に応じた売り場づくりの指示が必要な場合があります。横断幕や店頭のPOP、チラシ品のPOPや陳列場所など店舗への指示事項があれば、チラシ原稿と同時に店舗に伝えます。
D.実績データ集計
チラシセール期間後はなるべく早いタイミングで、実績データの分析を行います。
まずは、売上目標が達成できたかどうか。各店舗別の実績を確認し、達成店舗、未達店舗を振り分けます。
次に未達の場合の原因を確認します。レジ通過客数データから、チラシ期間の来店客数の変動を前年同期間あるいは前週と比較します。
売上高を客数と客単価に分けて考えると、客数の変動さえ分かれば、未達理由は集客できなかったのか、単価が下がったのか、どちらに原因があるのかが整理できます。
客数が落ちている場合は、同一期間の競合店のチラシを見たり、地区別に来店比率を確認したり、配布エリアに問題が無かったかどうかをチェックします。
配布エリアの分析には、「お客様がどこから来ているのか」という情報が不可欠です。顧客ごとの販売データがある場合は、地区別にレスポンス率(来店客数/配布枚数)を算出することが可能です。
それらに問題が無ければ、掲載商品や価格の設定が甘かったということもあります。POSデータからチラシ商品の販売点数が確認できる場合は、掲載商品ごとに販売個数を確認し、チラシ商品に魅力があったかどうかを調べます。
一方、単価が下がっている場合は、チラシの目玉の価格設定に課題が無かったかどうかを商品部と検討します。目玉品の価格と定番商品の価格があまりにも違う場合、すなわち、目玉商品の価格が安すぎる場合は店舗全体の客単価に影響を与えることもあるのです。
このように、原因をブレイクダウンして整理していくと、「なぜ、売れなかったのか」が分かり、そこから理解されたことはそのまま次のチラシ作成に反映させることが可能です。
強い販売企画部は、このようなデータに裏打ちされたノウハウがたくさんあることが条件です。
チラシの世界は比較的確率論で整理できることが多く、「こうした時」「こうなる」「その確率は○%」という捉え方が出来るのです。もちろん、販売に絶対(売れる)はないですから、100%のルールはありません。ただし、ノウハウを積み上げることで、その確度は高まります。
E.次回に向けた改善
Dで確認されたデータ分析から、商圏、掲載商品、チラシ企画を見直します。年間のチラシに関する計画の中に、予め「見直し」のタイミングを入れておきましょう。
集客効果の高いチラシづくりのためには、このようなマネジメントサイクルをしっかりまわすことが重要です。店舗数が多くなればなるほど、特にデータの収集・分析の業務負荷が高まります。自社のプロセスが整理されれば、上手くシステムに組み込むことも検討しましょう。
これまでは主な本部機能についてご説明してまいりましたが、次回はそれらの機能を現場で生かす店長の役割についてまとめていきます。
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