比類のないシステム可視化技術で、部分最適解を全体最適解へと導く

写真左から、原田主任研究員、菅坂、武主席研究員
IT産業が牽引したマルチベンダー化、オープン化への流れのなかで、システム環境はますます混沌としてきている。複雑化、高度化など複合した要因により、部分最適化はできても全体最適化が極めて難しい状況が顕在化しているのだ。
この解決に向けて富士通研究所が開発したシステム可視化技術は、パフォーマンスの低下がどこに発生しているのかをリアルタイムで特定できる、ほかには類を見ない技術である。この技術は従来のものとどこが違うのか。富士通研究所R&D戦略室の武理一郎主席研究員、ITシステム研究所 システムミドルウェア研究部の原田リリアン主任研究員、ビジネスインキュベーション研究所 企画・マーケティング推進室の菅坂玉美に聞いた。
1980年代から始まった構想

武理一郎主席研究員
武も原田もともに当時の研究テーマはデータベースだった。現在はオーガニックコンピュータの研究開発に従事している武が、システム可視化技術開発の経緯を語った。
「1980年頃から世界中でリレーショナルデータベース(現在主流のデータベース技術)の研究開発が始まっています。私たちも、将来は世の中の情報がすべてデータベース化され、利用しやすい社会が生まれることを願いデータベース管理ソフトウェアの研究開発と製品化を進めていました。企業に存在するデータの中でデータベースに入れていただけるデータは銀行様などの場合で15%程度。この比率が拡大すると期待したのですが、意に反してどんどん下がるのです。95年頃にはこれが5%程度になり、2000年頃は2~3%。つまり、ほとんどの情報はデータベースに入ってこないという状況でした。」
「データベースにデータを呼び込むにはどうすればよいかを考え、大量に発生し始めていた時系列データ、つまりイベントデータに着目しました。たとえばPOSデータやログデータ、センサーデータなど。いつ、誰が、どこで、何をしたというイベントデータが大量に発生しています。これを蓄積・管理し、利用する技術を開発しようと考えました。やがて、この技術は、ITシステムのログを解析する技術へとテーマを変え、最後にネットワークのメッセージ情報を直接、観測、分析する「システム可視化」というテーマへと変わりました。」
原田がこれまで関与したプロジェクトはデータマイニング、イベントアナライザ、イベントフィルタなど数多く、これらプロジェクトで開発した処理エンジンは富士通のミドルウェアであるInterstage(インターステージ)やBPM製品に組み込まれている。ブラジル出身の原田はその堪能な語学力も生かして国際学会でも研究発表を数多くおこなってきたが、自分たちの技術が現場にどう生かされているかを見届ける環境にはなかった。しかし現在では、実際にお客様と接する機会を得て現場の声を聞き、研究に役立てているという。
「ITシステムの複雑化により、システム挙動を十分に理解できていないまま運用や改善を任されて、困り果てているシステムエンジニアが大勢います。何社もの製品が混在していたり、同ベンダー製品で構成されたシステムであっても、たびかさなる更新やバージョンアップにより、システムの実態が見えなくなっているのです。システム可視化技術は、このような状況下のシステムエンジニアにはもちろんのこと、経営層にとっても、システム改善や内部統制対応などの客観的な判断材料になり得ると思います。」

ITシステムの複雑化により生じる問題点とお客様ニーズ
「私たちの持っている技術は基本的に3種類あります。 1つはシステムの動作のモデルを作るデータマイニング技術。2つ目は、リアルタイムに流れているメッセージ群を動作モデルにマッチングさせて、オンラインで高速に処理する、マッチングエンジン技術です。3つ目は、ネットワークに流れているデータを高速に集めてサーバの中に引き取り、最終的にわかりやすい形にしてダッシュボードとして提供する、いわば統合技術といってもよいでしょう。特にデータマイニング技術とマッチングエンジン技術は富士通の独自技術が活かされており、他社がまねできないものになっています。」
システム可視化技術はホームドクター
「何となく重そう」「何となく遅い」というあいまいさから脱却する

原田リリアン主任研究員
この技術の適用範囲は、システムアカウンタビリティのためのツール、ライフサイクルマネジメントとしてのツール、そして予兆監視ツールとしての利用と幅広い。3人は今回の技術を「ホームドクター」と称している。
「ホームドクターはそれぞれの患者の体質を把握していますから、ちょっとでも変化があれば『顔色悪いね』などといえます。そして、悪い箇所が肝臓らしいとわかれば、専門医にゆだねることでしょう。 これと同じように、システム可視化技術では、昨日と動作が違うぞという観点で問題の所在を知ることができます。また、キャパシティプラニングにも利用できます。たとえば、毎月データベースが重くなってきているから来年は高速ディスク搭載のデータサーバを導入したほうがよいかどうか、次のシステムをどうしようかなど、データに基づいた客観的な判断が可能になります。 また、システムの利用者から「画面がフリーズしたぞ」などと連絡が来る前に、システム部門で問題を察知し対処できれば、利用者の満足度を向上させることもできるでしょう。」
もはや現場の問題に対する主観的な表現、「重そう」とか「遅い気がする」などは、客観的な言葉に置き変わっていくだろう。
市場とコア技術を結ぶ役割

菅坂玉美
今回の技術開発に対し、早くも多くの引き合いがきている。この声に嬉しい悲鳴をあげているのが菅坂だ。企画・マーケティング推進室に異動するまでは、色々なプロジェクトに携わり、研究員として技術畑を歩いてきた。現在は、その経験を生かし、技術サイドからのマーケティング活動に取り組んでいる。
「このプロジェクトにおける私の役割は、基礎開発された技術を製品化し、世に送り出すことです。システム可視化技術は、システム運用管理者から経営層まで、また、業種を問わず、幅広く利用していただけます。この技術を必要とするお客様に向けて、コア技術の価値を伝えていくのは、私の仕事の1つです。
「研究者は技術を深掘りするのが仕事です。つまり、より精度の高いものを提供しようとします。一方、事業化の部署は売ることが仕事です。つまり売れるものを企画しようとします。コア技術の開発と商品仕立て、この調整には意外と苦労しています。」
次代を読み、新たなる研究開発へたゆまない努力を
ITプラットフォームの将来はどういう変化が起きるのか。そして、システム可視化技術の今後の展開を聞いてみた。
「マルチベンダー化は今や必然のこと、コモディティー化も同様です。ですからITシステムは多種多様化しており、しかも、必ずしも品質レベルやインターフェースの考え方が一致していないコンポーネント群で構成されることになっています。そのなかで、さまざまな障害やコンポーネント間のミスマッチが多発していますが、そもそも、そんな障害やミスマッチが発生しているのか、把握することすら難しい。こういう状況が日常化し、適切な運用管理が困難になるだけではなく、想定以上のコストが費やされてしまっています。 このような状況を効率的に改善するには、外から監視することで、システムの動作確認ができれば、運用管理はずいぶんと楽に、スムーズになると考えています。」と武は言う。
「今後はTRIOLEテンプレートなどと組み合わせて提供できるとよいと考えています。TRIOLEテンプレートはシステム構成情報を示すものですが、この情報に加えて「こんなタイミングで動くはず」という動作情報を提供できれば、システム構築の工業化(注)に役立つでしょう。また、それにより運用中のシステム可視化もできますから、お客様の運用管理はさらによくなるはずです。」と原田は言う。
「あらゆる業種、業態にご利用いただくことで、ノウハウやデータを蓄積し、ゆくゆくはコンサルティングを含めたサービスとして提供していきたいと思います。そこまでいけば、この技術は完成したと言えます。」と菅坂は言う。
「技術の製品化、ビジネス化までには長い道のりがあり簡単ではありません。しかし技術はビジネス化され人の役に立って、喜びの声やお叱りの声を受けながら育っていくものです。研究者もビジネス化にチャレンジしていかなければ自分たちを枯らしてしまうことになります。富士通は技術をコアとしてビジネスをする会社です。そのなかにあって、新しい技術を市場に問い続け、リスクを取ってチャンスを掴むことが私たちの役目ではないでしょうか」武からは研究員としての誇りと責任がうかがわれた。
2008年1月21日 公開
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