成長戦略に導くオフショアリング活動のすすめ

コスト削減を目的とした経営目標達成の一戦術としてのオフショアリング活動から、企業の成長戦略に結びつけ利益を創出する「サービス事業」へ転換するためのポイントについて、富士通総研のエコノミストが市場の動向を交えながら解説します。
オフショアリング活動の市場動向
業務プロセスの標準化とITのグローバル普及により、オフショアリング活動が世界中で拡大しています。業務内容は、ソフト開発(ITO(注1))から始まり、次第にバックオフィス業務(BPO(注2))に発展し、設計・技術開発業務(EPO(注3))やR&D業務・コンサルティング業務など知的作業(KPO(注4))の域までに広がっています。

当初、これらのオフショアリング活動は、自国の市場ニーズを満たすために、従来は自国内でおこなっていた業務を海外で実施することによって、コスト削減や組織改革、国内業務の効率性を目指すものでした。
日本企業においても、1980年代後半から、主にITOの分野で欧米企業に遅れることなく、オフショアリング活動を展開してきました。その後、生産のグローバル化に続き、市場のグローバル化が進み、オフショアリング活動も ある特定の市場向けから、グローバル市場に向けておこなわれるようになってきました。
さらに、オフショアリング活動で確立されたプレゼンスやオフショア拠点のリソースを海外市場の開拓に活用し、グローバル成長戦略と結びつけて展開する取り組みも進んでいます。欧米のグローバルベンダーにはこのような発展的展開が見受けられ、特に、中国やインドのような急速に伸びている市場においては、オフショア活動と成長戦略の結びつきがますます緊密になっており、すでに現地市場の開拓に成功した事例が出ています。
某グローバルベンダーでは、社内業務の効率化のために中国で始めたBPOを通して得たノウハウをショーケース化し、顧客向けサービスに発展させています。

これに比べて日系企業では、オフショアリング活動の成功と言える以下の3つの事例について、残念ながらあまり見受けられないのが実情です。
- オフショアリング活動の深化(規模の拡大、グローバル拠点化)
- 多様化(オフショア対象を情報システムから総務、人事などの企業サービス機能などへ拡大)
- プロフィット化(オフショアのリソースを活かした収益拡大、オフショアリング活動を機軸とした主業務の開拓)
なぜ日系企業ではオフショアリング活動が発展しないのでしょうか。要因はいくつかあると思いますが、大きく2つの問題があると考えています。
現場主導によるオフショアリングの問題点
日本企業におけるオフショアリングの取り組みは現場主導でおこなわれることが多く、経営戦略に組み込まれていないため、コスト削減を目的とした経営目標達成の一戦術としか認識されていないからだと考えます。
また現場の従業員のなかには、海外に仕事を委託してしまうと、自分の仕事がなくなってしまうという懸念を抱く人もおり、さらには取り組みの失敗で責任が問われるのでは、といった不安を持つ人や、在来の仕事に対する愛着が発展の障害になるケースが少なくありません。
ソフトウェア開発に偏るオフショアリングの問題点
ある日系大手ITベンダーは1980年代後半からアジア諸国を中心にITOを展開してきており、オフショア対象地域におけるプレゼンスも確立され、ノウハウやリソースも蓄積しています。
しかし残念ながら、20年余り経過した今でも、初期目的である日本国内のソフト開発事業のコスト削減から脱却しておらず、オフショア拠点の多様化や、オフショアのリソースを活かした収益拡大活動、オフショアリング活動を機軸にした主業務の開拓事例は、あまり見られませんでした。
つまり、日系企業のオフショアリングはITOに偏っており、ITO、BPO、KPOを融合したトータルオフショアベンダーへ深化していないのです。一部の日系企業では、バックオフィスの効率化をはかるためBPOも検討されているようですが、自社での取り組みノウハウを活かし、製品化(サービス化)まで発展させるための経営戦略が不明瞭であるため、順調に進んでいるとは言いがたい状況です。
また、あるITベンダーでは、金融ITソリューションの海外進出をはかっていますが、金融関連のオフショアリング活動と連動した戦略をとっていません。
「サービス機能」から「サービス事業」としてのオフショアリングへ
日系企業が真のオフショアリングを実現し、成功を収めるには、自社拠点によるインハウス オフショアリングであれ、他社へのサービス提供を目的としたオフショアリングであれ、本社と現地拠点との間はあくまで「サービス」を基にした取引関係を築く必要があります。
サービスの品質、コスト・パフォーマンスは担当者の「人的」判断ではなく、「契約」によって決められます。取引という緊張関係の中でこそ、「サービス機能」を「サービス事業」へと転換させていくことが可能となるのです。
利益を創出するオフショアリング活動を目指して
オフショアリングは「コスト削減」「人員整理」といった後ろ向きの目的であるという固定概念を改め、「将来の成長に結びつける」積極的な経営戦略であるという理念を、経営層と現場の間で共有する必要があります。現場の事情を無視してはいけませんが、担当者任せでは取り組みは進まないのです。
つまり、オフショアリング活動と成長戦略を結びつけて実行する必要があるのです。この場合、成長戦略の実行部隊であるフロントチームとオフショアリング担当部隊との連携が欠かせません。
たとえば、中国ではサービスアウトソーシング産業の育成に全力を挙げており、海外のオフショアベンダーに対して減免税などの優遇政策を与えるだけでなく、現地市場進出も支援してくれます。つまり、オフショア発注と現地市場参入の交換戦略、いわゆるWin-Win戦略が取られています。発注側の主業務成長がなければオフショアリング活動も長く続かない、ということを理解しているからです。
さらに、富士通のようなソリューションサービスベンダーにとっては、オフショア拠点をコストセンターからプロフィットセンターへ転換させるという、中長期的な戦略も要求されます。
昨今の世界市場の減退により、コスト削減、予算の見直しを余技なくされ、既存の市場が縮小してしまうのに直面する企業は多いかと思いますが、このような情勢だからこそ、中長期的に、グローバルな視点からの経営戦略のひとつとして、利益に結びつき、主業務の成長市場をもたらすためのオフショアリング活動についてご提案したいと思います。
「優れたソリューションを、適した地域で調達し、かつ適した地域から顧客に届ける」といったビジネスモデルは、既に一部の欧米企業主導で確立されていますが、ぜひとも日系企業でも成功してほしいものです。ご興味のあるお客様は、お気軽にお問い合わせください。
〔富士通総研 経済研究所 主席研究員 金堅敏(ジン ジャンミン)〕
注記
- (注1)ITOとは :
- IT Outsourcing(アイティー アウトソーシング)の略。主にソフトウェア開発の下請け業務のこと。
- (注2)BPOとは :
- Business Process Outsourcing(ビジネス プロセス アウトソーシング)の略。自社の人事、会計、総務などのバックオフィス業務の一部を外部の専門業者に委託すること。
- (注3)EPOとは :
- Engineering Process Outsourcing(エンジニアリング プロセス アウトソーシング)の略。自社のCADなどの設計、デザイン、シミュレーション業務などの一部を外部の専門業者に委託すること。
- (注4)KPOとは :
- Knowledge Process Outsourcing(ナレッジ プロセス アウトソーシング)の略。法律、研究開発、調査など高度な技術・知識を必要とする業務の一部を外部の専門業者に委託すること。
[2009年2月2日 公開]
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