現場のマインドが変われば業務改革は半ば成功
半年間で飛躍的な改善を実現したコンタクトセンターの秘訣

写真左から、菊地哲也プロジェクト部長、野近英哉課長代理
ITだけでの業務改善は果たしてどこまで可能だろうか?富士通では真のイノベーションを目指してコンタクトセンター(コールセンター)業務改善のコンサルティング・サービス業務を本格的に始動させた。業務改革は、人、プロセス、ITを見直すことから始まると言われるが、ドコモサービス四国様のコンタクトセンター改善プロジェクトは、ITに頼らずに飛躍的に業務を改善した事例である。
フィールド・イノベーションの真髄とは何かをGLOVIA事業本部 業務プロセス改善提案センター プロジェクト部長の菊地哲也と課長代理の野近英哉に聞いた。
コンタクトセンターは人、そしてまた人

野近英哉課長代理
現在のコンタクトセンターが直面している課題を野近に聞いた。
「現在のコンタクトセンターの抱える課題は、3点あります。1つは人材育成、2つ目が離職率の低減、そして3つ目が顧客満足度の向上です。コンタクトセンターの費用の8割は人件費です。これに対しシステムに関わる費用は残り2割のうち7~8%に過ぎません。ですからどんなシステムを導入してもその費用は人件費に比べれば微々たるものです。
また日本の特殊性とも言えますが、スタッフの85%は非正規社員で占められています。韓国の場合が66%程度、その他の国の場合で20%前後です。
このことから、生産性を向上させ、コストを削減するためにはどう人を育てていくべきかが第一の課題と言えます。スタッフのモチベーションをどう維持、向上させていくかが第二の課題。そして、第三の課題がお客様にどのようにして好印象を与え続けていくかというものです。人が人と接していくという仕事柄、お客様とコミュニケーターとの相性というものも印象度を左右しますし、難しい課題です。」
「ドコモサービス四国様のケースでもこの「人」に注目しました。コミュニケーターは当初、解約を申し出たお客様に対しても笑顔で接し、手続きをすみやかに終了させていました。お客様には常に『的確な対応を、明るく、丁寧に』と指導されてきたのですから、その対応でこれまでは問題なかったのでしょう。私は「解約の理由は何だったのですか。もう一押しして解約を踏みとどまらせる方法はなかったのでしょうか?」と尋ねたところ、明確な回答は返ってきませんでした。コミュニケーターは自分たちがそこまでの役割を担っているという認識が薄かったのです。」
フィールド・イノベータとして PDCAからCAPDへ
菊地は野近の説明を補足する。
「品質の向上という課題はわかっていても、現場はそこまで意識できていないのです。さらに、マネージャーもそういう実情を把握できていない場合がよくあります。この場合、与えられた企業目標は単なるお題目にしかなっていません。
この実態を把握するために私たちは、フィールド(現場)に入り、コミュニケーターの細かな不満や希望を知ることから始めます。
ここでは、別の角度からの質問を投げかけて状況を分析していきます。つまり、ハウツウ(how-to)やトゥビィ(To be)という“あるべき論”から離れて、『自分たちがどうありたいか』、『どんな言葉を使えばお客様は満足するか』というような質問により、自分たちの「今」を知っていただきます。これが業務改革の基本です。電話を取ればそれでよしとするのではなく、顧客の声に耳を傾けることがなぜ大切なのかを確認する作業です。」
ここで取り入れている手法は、品質管理では当たり前の考え方である「PDCA(Plan~Do~Check~Action)サイクル」ではなく、菊地たちが考案している「CAPD(Check~Action~Plan~Do)サイクル」という方式である。これは、『今の現場』にこそ改善のヒントが隠れている』という彼らの持論を裏付けるものだ。

「私たちはフィールド・イノベータです。従来型のコンサルタントとはアプローチ方法が異なります。一般的なコンサルティングでは、まず理想像(To Be Model)を掲げて「あるべき論」を説きます。この理想と現実とのギャップを解決すべき課題と定義し、ある程度の道筋は示しますが、そこまでです。私たちフィールド・イノベータは「あるべき論」も大切にしますが、それよりも今、お客様がどういう状況にあるのかを探り、現場の課題や悩みを客観的に把握することを最も重要視するのです。」
野近が続けて説明する。
「従業員満足度調査をすると『職場に置かれた自動販売機の品目を増やして欲しい』とか『休憩時間が短かすぎる』といった希望や不満がまず出ます。しかし、『こうやって回したらもっと後処理時間を短縮できる』、『質問はどれも似ているので、FAQとしてまとめて、すぐに閲覧できるようにしたら』など、改善に近い意見も出てきます。
経営陣の設定した目標をトップダウンで一方的に押し付ける取り組みでは、現場の6割は納得していても4割は気に入らない、あるいは知らない、という結果に終ることが起きえます。真の課題解決には現場からのボトムアップも重要になります。」
今回のプロジェクトでも野近はスタッフと2人で3週間にわたりホテルに泊まりこみ、100名以上のコミュニケーターが取った338コールをすべてモニタリングし、88項目に分かれた採点表にそって実情を把握したという。
これらを現場に反映する際、コミュニケーターに直接アドバイスするのではなく、スーパーバイザーを介して反映されるよう配慮している。
「第三者がコミュニケーターに直接アドバイスしても現場は納得しません。納得しない限り現場は動きません。ですから、納得させられる人間は誰か、『気づき』を与えることができるキーパーソンが誰かを把握します。『話が一方的だ』と注意するのではなく『継続的に利用していただくための提案はできていますか』という『気づき』を促すための質問を用意します。」
正当と思える課題でも疑ってみることが大切

菊地哲也プロジェクト部長
30年の長きにわたり金融機関のお客様を対応してきた菊地は、その経験を振り返りながらこう語った。
「生産性を上げましょう、コストを下げましょう、確かに妥当な課題のように思えますが、多くの人が忘れている、見失っている大切な視点があります。それは、お客様視点です。最近世間を騒がせている某業界での不祥事も、このような『目的優先の企業姿勢』に原因があるように思えませんか。」
「過去に金融機関が押し並べて情報系システムと称し、何千億円もの投資をした時期がありました。その投資で、どれだけ業績が向上したのか、どれだけ儲けが増えたのか、投資を回収できたのか?など多くの疑問が残りました。 これは、私たちがITありきで物事を考え情報システム部門を中心に、システム要件やどんなアプリケーションが最適か、だけを提案してきたことも要因の1つと思います。もはや、ITシステムを導入したからといって、顧客視点や経営視点に立脚した業務プロセスの改善は生まれないのです。」
納得すればヒトは動く
多種多様な業態がある中で、コンタクトセンターの業務改革は分かりやすいと言われる。電話を受ける業務。電話の対応が悪ければ評価は下がる。対応がよければCS(顧客満足度向上)は上がり、売上も伸びる。駄目な場合はこの満足度指数を上げるための方策を打ち立てればよい。だからわりやすいというのが巷の意見だ。この意見に対して菊地はこう言う。
「確かに、課題は把握しやすいかもしれません。だからといってコンタクトセンターの改革が必ずしも容易とは言えないのです。人のマインドを変える、人材を育成することが課題ですから、これをレベルアップできない限り本当の業務改革は実現しません。」
CS(顧客満足度向上)を高めるよりもES(従業員満足度向上)を高めることの方が企業の成長には有益であるというのが二人の見解だ。人のマインドと深く関わるESが高ければ自然とCSが高まることを多くの経験から誰よりも知っている。そして顧客も実のところはESを見ているのだという。

何を改革するのか?
プロセスをどうするのか
そして人をどう変えるのか?
この3つの課題に業務改善提案センターでは営業と手を携えて一丸となって取り組む計画だという。情報システム部門を中心に営業展開してきたことに対する反省を踏まえた結果だ。
最後に2人は、業務改善提案センターの役割とビジョンを話してくれた。
菊地は言う。
「情報システム部門とのコミュニケーションは、ITベンダーである当社の方が経営陣よりも長けている場合があります。ですから私たちの業務プロセス改善活動を通して、経営陣の課題を把握した上で、経営陣と情報システム部門、情報システム部門と現場、現場と経営陣のパイプ役を担えれば、改革の触媒になれれば、と考えます。」
野近は言う。
「フロント業務の人たちのみならず、バックオフィス業務に携わる人の声にも耳を傾け、不満や希望を探ることが真の課題発見には必要なのです。このためにも年度内にコンタクトセンター・ノウハウ集を刊行する予定でいます。これはコンタクトセンター以外の現場でも活かせる改善ノウハウ集になると思っています。」
意識が変わることで大きなイノベーションが起きること、「納得すれば人は動く」ことを、彼らは明瞭に証明してくれた。
2007年11月19日 公開
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