
代表取締役社長
山本 正已
明けましておめでとうございます。本年が皆さんにとって良い年でありますようにお祈り申し上げます。今年最初は、スーパーコンピュータ、いわゆる「スパコン」のお話からさせて頂きます。 ここに「10ペタフロップス」という、生命の神秘や宇宙誕生の謎にもせまり、地球と人類の持続可能な発展にも貢献できる可能性を秘めた計算性能に、人類が到達したことを示す一枚の認定証があります。

富士通は世界第3位のICTサービス企業として世界中の社会や人々の暮らしをICTの側面から見守り続けている会社であると同時に、スパコンメーカーとしての顔を持ち続けてきました。実は富士通のスパコン開発の歴史は30年以上と古く、過去二度にわたってスパコン世界一を獲得している世界でも数少ない会社です。理化学研究所様と共同開発を進めていたスパコン「京」が、昨年6月のスパコンTOP500ランキングに引き続き、11月のランキングにおいてLINPACK性能で世界一を連覇。11月には、同時にHPCチャレンジ賞全4部門1位、ゴードン・ベル賞と、あわせて6冠獲得という快挙を成し遂げました。

性能ランキング等に注目が集まりやすいスパコン開発ですが、私たちがどういう思いをもって世界最高性能に挑戦し続けているか、それは「テクノロジーの力によって、人類が未だ到達したことのない未来の一番近くにせまりたい。そして世界の様々な難問を解決することで人類の豊かで夢のある未来に向けて貢献したい」という私たちの決意を表しています。スパコンを用いたシミュレーションは、それを実現する大きな鍵です。そこには世界で一番の計算性能を持つものだけに垣間見ることを許される、世界で最先端かつサステナブルな未来があります。世界一の計算性能がはじき出す解析結果は、世界中でそこでしか見ることのできない人類の可能性を、いち早く私たちに示してくれます。私たち富士通は、これからもスーパーコンピュータでの貢献を通じて、山積する社会問題の解決や、人類の未到達分野の開拓など、豊かで夢のある未来の創造に向けてICTでチャレンジを続けていきます。

人類は有史以来、未来を予知する事を夢見て挑戦することで発展を持続して来ました。古代文明に残る日時計や巨大遺跡は、少しでも正確に未来を知るための各時代の先端技術だったのではないでしょうか。太古の昔からの人類の夢が、今、スーパーコンピュータによって現実のものとなってきました。
コンピュータの起源は諸説ありますが、最も有名な世界最初の汎用計算機ENIAC(注)は第二次大戦時に大砲の軌道計算のために開発されました。その後、事務処理の効率化に使われ爆発的な進化を遂げ、インターネットと融合した現在、計算機はあらゆる産業分野の情報基盤として人類に不可欠なものとなりました。そして「これ以上計算機の進化は必要ない」という人さえいます。しかし、私は計算機が本来果たすべき役割においては、たった今漸くスタートラインに立ったばかりだと考えています。
昨年の大震災は大変大きな傷跡を残しました。続くタイの洪水、トルコ地震、世界中で自然災害は後を絶ちません。被害を予測し最小化し、サステナブルな社会を実現するために、もっともっとICTが役に立てるはずです。例えば津波の発生メカニズムはほぼ解明されていると言えるでしょう。スーパーコンピュータによるシミュレーションが被害の予測やもし起きた場合の対策に十分役に立てるはずです。しかし、それを実用レベルに持ち上げるにはいくつかの課題があります。一つは精緻な地形や海底のデータの整備が必要な事、そしてもう一つはまだまだ足りないスーパーコンピュータの処理能力です。現在一般的に使われているスパコンの性能では、一辺、数Kmという立方体を単位にしたシミュレーションが限界です。大まかな波の進路は予測できても、人間のスケールで一体どこに避難すればいいか、どこに防波堤を築けば効果があるかなどを解析するには、まだまだ処理能力が足りないのです。人間の行動を決めるのに役立つ精度は、最低でも数10mまで微細化する必要があるでしょう。そうなると単純計算では現状レベルより100万倍のコンピュータ性能が必要ということなります。
私は、計算機が従来の「人間の仕事を効率化する役割」に加えてシミュレーションに代表される「計算機にしかできない新たな役割」を担える処理能力に、ようやくたどり着いたばかりだと考えています。京コンピュータがまさにその扉を開いたのです。ICTが人類の持続可能な未来や人々の暮らしを守る時代が、今まさに始まろうとしています。

サウジアラビアのKAU(キング・アブダラ大学)様と山田昌彦の写真
私は、サステナブルな社会の実現に向けて「デジタル国土」を創りたいと考えています。それは、実際の地形、建物、構造物、地下街、地下鉄、電力網、ガス配管、等の3次元デジタルデータからなる仮想の国土です。実現すればコンピュータが従来では考えられない新たな価値を生み出す事になります。大都市をもし津波が襲った場合、巨大なビル群はどうなるのか?遮断された道路はどのような混乱を招くのか?広大な地下街はどのように浸水して行くのか?そして、何より被害を最小限に抑えるための理想的な都市設計や、少しでも安全な避難場所や移動ルートを探す事前の準備が可能になるはずです。もちろんデジタル国土は、それ以外にも多くの新しいビジネスを生み出す可能性を秘めています。
私はいつの日か必ずこういう日が来ると信じています。課題は、日本では地図、地形、構造物、海底等を管轄する省庁の縦割りによって統一的な施策がとりにくく、電気、ガス、地下鉄、等のデータは各民間会社の財産であるため、それらを一元的に管理・活用することが非常に難しい点にあります。また、もっともっと簡単に正確に国土のデジタル化が進められる3次元センシング技術を確立し実用化、普及させる事も必要となるでしょう。「従来のICT企業の枠を飛び出して、国を挙げたデジタル国土実現をプロモートして行きたい」まだまだこの先、10数年かかる一大事業かもしれませんが、そんな未来を夢みながら、ICTベースのサステナブルな町づくりを現実のものとするため、これからも情熱を傾け続けて行きたいと思います。
その他にも、世の中にはまだまだ解決されていない課題がたくさんあります。末期ガンの治療を可能とする新薬やエコシティ向けの先端材料の開発、宇宙の謎の解明など、幅広い分野で人類共通の課題を解決していくでしょう。産業分野のものづくりにおいては、既になくてはならない存在になっており、その重要性はさらに高まりスパコンの速度が開発競争力を決める時代がすぐそこまで来ています。
60年前、17,468本の真空管を使った世界最初の汎用コンピュータENIACは、動くはずがない、お金の無駄だ、など多くの議論を呼びました。しかしこれが現在のICT社会を生み出すきっかけになった事は歴史上の事実です。理化学研究所様と富士通が共同開発した「京コンピュータ」は世界一となりましたが、本当の成果はこれからです。数10年後、スパコンはサステナブルな社会の安心と安全を支える人類になくてはならない社会インフラになっているでしょう。あの「京コンピュータ」がきっかけだったと振り返られるようになっていたらこれ以上の喜びはありません。
これからも富士通は、豊かで夢のある未来の実現に向けて、まだ見ぬ未来の一番近くに迫り、人類の英知をICTで創造するために、全社一丸となって弛まぬテクノロジーの進化を継続していきます。
注:ENIAC(エニアック、Electronic Numerical Integrator and Computer、「電子式数値積分・計算機」の意)は、アメリカで開発された最初期の電子計算機(コンピュータ)